【王子様とお姫様 はじまりはみんなが石になってから】
 
 
 「ん……」
 朝。爽やかな風に、暖かい陽射し。そして、小鳥の……さえずりは聞こえない。
 巨大な国、池袋の王子である静雄は目を覚ました。
 寝ぼけた顔で、むくりと起き上がる。まだぼーっとしているのか、口をあけたまま壁を眺めている。
 寝相の悪さからか、乱れたパジャマのボタンは3つほど外れており、肌が露出している。
 隣には、幼い頃から抱かないと眠れなかったうさぎの人形。
 キレた静雄を見たことがある者は、今の彼と同一人物だと思わないだろう。
 それほどまでに、静雄は大人しかった。
 だが、今日はいつもと違った。いつまで経っても、彼はボーッとしていたのだ。
 「あれー……」
  口から、音が漏れる。違和感に気付いたようだ。
 「…来ない……?」
 そう、いつもはメイドやらお世話係のトムさんやらが来るのに、今日は誰も来ない。
 「おかしくねえか……?朝だよなあ…」
 もしかしたら、変な時間に目が覚めてしまったのかも知れない。
 そう思って静雄は掛け時計を見たが、時刻は7時30分。とっくにみんな来ているはずだ。
 まさか、何かあったんじゃねえか……?
 急に不安になり、静雄は王室へ行くことにした。
 
 
 王、王妃は何故か朝が早い。
 五時には朝食を済ませ、仕事に取りかかっているはずだ。
 だから、今静雄の父は仕事をしている。そうであれば、メイド達が来ない理由を聞ける。
 コンコン。
 静雄はノックをした。返事はない。
 「父上、入ります」
 しーん。
 そこには、誰もいなかった。強いて言えば、石がたくさん"あった"。
 父の形をした石像、母の形をした石像、トムさんの形をした石像、兵士の形をした石像。
 どれもどれも、とても精巧に作られていた。毛一本すら、本物のようだった。
 誰がこんな悪趣味なことを。
 普段の静雄ならキレているところだが、戸惑いでキレることすらできない。
 ……これはきっと、本物だ。
 本物が、石になったのだ。
 何故?最近、池袋は何も揉め事は起こしていない。なのに……?
 そういった現象は、もしかしたら魔術とかでできるのかもしれない。
 静雄にはデュラハンの友達がいるから、その存在は否定できない。
 ふと気になって、バルコニーから街を見渡してみた。
 
 何も 動いていなかった。
 
 新聞屋と飼い犬は格闘したまま、朝市の準備をしている人たちは荷物を運んだままで止まっている。
 あらゆる生き物が、止まっていた。
 動いているのは静雄だけ……らしい。
 何故自分だけが。このところ思い当たる節もなく、呪いでもなさそうなのに。
 「畜生、なんだってんだよ……!」
 「この世で生きてるのはシズちゃんと俺だけってことだよv」
 声がした。今は自分しか動いていないと思っていたのに、声がした。
 驚いて振り返ると、黒いモフモフコートがいた。妙に見覚えのある顔だ。
 「ウラァッ!!」
 「ちょっ、シズちゃんいきなり……ゴフッ!?」
 びっくりした。
 「な……何でいきなり殴るのさ……」
 「手前が殴りたくなる顔してたからだ」
 そう言って、静雄はこめかみがヒクヒクとなるのを感じながら、男の襟を掴む。
 「手前がこんな風にしたのか、アァ?」
 変なこと言ったら、頭突き。まあ、まともなことを言うとは思えないが。
 「やだなシズちゃん、俺のこと忘れたの?」
 疑問系で言われたので、頭突きは先送りになった。
 ……でも絶対、殺す。
 そう決心して、モフコート(略)を睨み付けた。
 「もうそんなに見つめないでよー恥ずかしい」
 「棒読みで言うな」
 「……先日はどうも、お世話になりましたv」
 その言い方。聞いた覚えがある。まさか。まさか。
 「臨也……!!」
 「ぴんぽーんっ☆おめでとうシズちゃん大当たり!景品は俺v」
 「うぜぇ」
 「いくらなんでもそれはひどいよシズちゃん…キスまでした仲なのに」
 その一言で、静雄の顔が真っ赤になる。
 あの感触が、再現されたようで。舌で歯を舐められた感触、唇の柔らかさ。
 「ク……可愛い」
 微笑む臨也を見て、何故かいっそう顔が赤くなった。
 なんなんだよ……畜生!
 耐えきれなくなって目を逸らすと、石になった人々が目に入った。そういえば、そうだった。
 「で、何で石になってんだ」
 「あー。俺が頼んで作ってもらった薬でなった」
 「薬?」
 頼んで呪ってもらった、なら分かる。だが…薬?
 「ほら、君も仲の良いさ……首なしのデュラハンがいるでしょ」
 セルティか。
 「彼女の相方の岸谷新羅に作ってもらったのさ。俺とシズちゃん以外、世界中がみんな石になる薬」
 「ハァ?」
 「だから、今世界では俺とシズちゃんしか動いてないって訳」
 何を言ったのだろうこの男。ああやっぱり頭がおかしいんじゃねえのコイツ。それか夢だ。
 「あ、ちなみに俺、復活薬飲んでるから何回殴ってもすぐ治るよ」
 それは、意味がないと。何だか殴る気が失せた。
 「あーでもお腹減ったねえ……さて、王宮の暮らしでも堪能するとしようか」
 「手前…っ」
 気楽に「きょうは俺の日っフッフー♪」とか歌いながら衣装室へ入った臨也に、静雄は叫ぶ。
 「城から出やがれッ!!」
 そして、無駄だと分かっているのに殴る。
 「ごふっ」
 一応、ダメージは与えられるようだ。峰打ちというやつか。
 だが、すぐに復活して臨也は服を着始めた。
 「駄目だよ。城からは出られないよ」
 「んでだよ」
 ぐい、と臨也が顔を近づける。
 「だって王様がいないんだから、シズちゃんが王位につくでしょ?」
 石になってるだけで、いないわけではないが。
 「そしたらさ、俺が女王さまでしょ☆」
 臨也が、真っ赤なドレスを着てくるりと振り返って言った。
 耳たぶを噛む臨也に、静雄は背中がゾクリと震えるとともに、またもや顔を赤くしていた。
 王子様が王様になったら、女王様の尻に敷かれるかもしれない。
 
 
 
 
 
 おまけ。
 「おい。石は戻らねえのか」
 「んなわけないじゃん」
 「……」
 「や、やめてちょっと!……いたいよシズちゃん!!殴らないでよ!」
 「もう一回殴るか?」
 「い、一日で戻るから!」
 「……そうか」
 「ところでシズちゃん、なんでまだパジャマなの?しかも半裸に等しいし」
 「…!!」
 
 一日と聞いてちょっとだけ残念だと思った自分がいたことを、王子様は否定できなかったそうな。
 
  
 
 
 
 -----後書き。
 久々です。
 いざやんとシズちゃんの絡みも、文を書くのも。
 その久々が謎王国パラレルってのはどうなのかとおもいますが。
 まあでも、アンケでパラレルがけっこう上位だったのでそれも兼ねて。
 夢かオリジナルが書いてみたい…!
 とりあえず受攻関わらず私の脳内で臨也は襲う方らしいです。
 三月は沢山書けたらいいなあと思います……!!春休みよ早く来い。
 06.03.04 けっぱ