【返品不可】 俺は、よく面倒な奴と関わり合いになる。 狩沢や遊馬崎がその筆頭だ。 溜息ばかり吐きたくなる時もあるが、別に嫌ではない。 だが、こうも熱烈な懐かれ方をされると……正直、殴りてえ。 「京平くーん!」 「だああ抱きつくな!」 俺の腰には今、変態…じゃなかった、千景がしがみついている。 逃げようと足を動かすのだが、こいつは全く離れねえ。 「ねえ京平くん、To羅丸に遊びにこない?」 「行かねえ」 「えー、じゃあ埼玉!チームに来なくていいから!」 「行かねえ」 「じゃあ…俺の…」 「あ?」 「俺の部屋に行こう」 「絶対行かねえ」 さっきからこんな感じのやりとりばかりだ。 最初の印象とはかなり違う千景。 何故だか知らないが、俺にこんなふうに近づくようになった。 ―初めは、俺と喧嘩して三日もたたない日だったな…。 俺は遠い目で、少し前のことを思い出した。 「京平くん」 「年下のくせに君付けすんじゃねえ」 狩沢曰く『友情がめばえた』俺達は、殴り合った仲にも関わらずだらだらと一緒の時間を過ごしていた。 気に入られたのかなんだか知らねえが、千景は俺を訪ねてきたらしい。 まあ、一緒にいても嫌な野郎ではないから、俺もそのまま一緒に居た。 そうしたら突然、こいつが妙なことを言いだした。 「俺、気がついた」 「あ?」 真剣な目で見てくるものだから、どうでもいい話ではないのだろうと姿勢を正す。 すると千景は俺の両手を包み込むように握って、きらきらとした目で言った。 「女の子だけが、ハニーな訳じゃないってことに」 「……は?」 意味が分からん。 しかも何故、俺の手を握る。こんなの、狩沢を喜ばすだけだろうが。 だが、千景は俺の冷たい視線に気がつくことなく、手を握る力を強めてきた。 「京平くん、付き合おう」 その意味の分からない言葉から、こいつからの熱烈☆京平くんラブアタック(命名、狩沢)が始まった。 「なあ」 意識を現実に戻すと、相変わらず腰にしがみついた千景がいた。 思わず頭を抱える。早く離れろ。 「京平くんは、俺のハニーになりたくないのか?」 「ああ」 即答。 俺の素早い返事に千景は傷ついたような顔をしたが、すぐに何か考え出した。 そして、しばらくの沈黙の後。 「じゃあ、妻になってくれ」 「埼玉に帰れええええ!」 くそ、こいつ……喧嘩の時と同じくらい真剣な顔で言いやがって! 冗談じゃないのか?……冗談に決まってる…よな? 脳内に『マジに決まってるじゃーん。ドタチン、早く落ちてあげなよ?』なんて言ってる狩沢が浮かんだが、急いで追い出した。 冗談にせよ何にせよ、俺にその気はない。 「何でだ?俺はこんなに京平くんのこと…」 「ったく、女ァ泣かせること言うなよ」 拗ねたように言うから、言葉を被せてやった。 ハニーだかなんだか知らないが、いつだって大量の女引き連れてんのはてめえだろうが。 それが、何をどう間違ったか知らねえが女放って俺なんか口説いてどうする。 女傷つける奴は絶対に許さないくせに、このままじゃてめえがなっちまうぞ。 「女がいる身でんなこと言うな。そんな奴に言われたって…」 「そうか!」 諭す俺の言葉を最後まで聞かず、何を思い立ったか千景は叫んだ。 ああ、やっと俺の言葉が通じたのか? 少し安堵した俺だったが、すぐにそれが間違いだと気付かされることになる。 「京平くん…大丈夫。俺は世界中の女の子と恋をしているけど」 いつの間にか腰から離れていた千景は、俺の正面へ回っていた。 そして腰を抱き寄せて、満面の笑みになる。 ……とても、嫌な予感がする。 「京平くんのことは、愛してるからさ!」 そのまま自然に唇を近づけてきた千景を、俺は悪寒を感じる体で手加減せずに殴った。 数メートルぶっとんだ千景が「そうか、京平くんはツンデレだったのか…」なんて呟いたのには耳を塞いだ。 誰か、早くこの女好きホモ野郎を埼玉に返してくれ。 願わくば俺の貞操か、堪忍袋の緒か、どれかが危うくなる前に。 |