ある晴れた土曜日の深夜。ドタチンはスーパーの袋を下げて猫と散歩をしていた。

  【捨て猫と捨て兎】

  「にゃー…っ(こんな夜中に連れ出して。一体今何時だと思ってるのさ?)」
  ドタチンに向けられた猫の鳴き声は、怒りを含んでいた。
  「すまんな。今日の朝寝坊しちまって」
  猫に弁解する。苦労性というドタチンの性格を知っているものなら苦笑するだろう。
  「にゃぁ(何かないの)」
  「分かった。今度かにかま買ってきてやるから」
  そんな事をしばらく喋っていると、猫が足を止めた。
  「…にゃっ!(わっ)」
  「ん?…捨て猫か…?」
  そこにはみすぼらしい段ボールがあった。
  "誰か拾ってください"
  「酷いな…まあ、お前もそうだったけどよ…」
  そう言ってドタチンが段ボールの中を覗くと…
  「きゅう(何だ?)」
  「兎!?」
  兎がいた。
  …何で兎が。そもそも捨て兎ってあるのだろうか。
  「…にゃぁ(どうするの?)」
  「家にはこいつがいるし…無理だよな…」
  そう思ってちらりと見ると。
  「きゅう(何だお前)」
  「にゃあ(ふーん。捨てられたんだ)」
  「きゅ…っ!!(うるせぇ…!!)」
  「にゃぁ?(あれ、気にしてるの?)」
  「きゅー!!!!(ぶっ殺す!!!!)」
  「に"ゃっ!!(物騒だねぇ…ってちょっと待っ…!)」
  猫と兎が睨み合っていた。
  …それ以前にこいつら仲悪いみたいだな…。
  「…すまん。俺ん家は無理だ」
  そう言ってドタチンは立ち去ろうとした。
  「にゃぁー…にゃっ!(だって。じゃあね…あ!)」
  「ん?あ、そうか」
  そう言ってドタチンはスーパーの袋から、にんじんを取り出した。
  「にゃっ!(えいやっ)」
  …が、猫に奪われた。
  「おいっ…」
  口ににんじんを咥え、兎の元へ走る猫。
  「にゃぁー(…これ、あげるよ)」
  「きゅぅ…?(…え…。いいのか…?)」
  兎が戸惑って聞く。
  「にゃっ…(いいよ。…ちゃんと食べなよ?)」
  「きゅ…きゅう!(ありがとうっ…!)」
  「にゃっ…!(…っ!)」
  兎が頬を染めて微笑んだこの瞬間、猫は恋に墜ちた。
  「じゃあ、帰るぞ。飼い主、見つかると良いな」
  兎の頭を撫でて、ドタチンは歩き出した。
  「…にゃっ(じゃあ…バイバイ)」
  「きゅうっ!(ありがと…!バイバイっ…!!)」
  名残惜しそうに何度も後ろを振り返り、猫は去っていった。
  大事そうにしっかりとにんじんを持ちながら、頬を染めて兎が呟いた。
  「…きゅう…(あいつ…名前なんていうのかな…?)」
  恋に墜ちたのは、猫だけではなかったようだ。
  暫くすると、兎の上に人影が落ちた。
  「ん…兎か?」
  兎がそのヒトに飼われることになるのは、また、別のお話。

  おまけ。
  「にゃ♪」
  翌日、ご機嫌の猫が段ボールのあった場所へ足を運んだ。
  「にゃ…にゃ!?」
  が、そこには何もなかったのである。猫は数日、何も胃に通らなかったという。


  -----後書き。
  某絵茶にて書いたモノを加筆修正したモノです。いざやんはあと数日でシズちゃんを発見します。たぶん。
  初めて書きました兎×猫…!絵茶の力ってすごい。
  猫イザやんに萌え死にしたこと以外はあまり覚えてませんよ…?記憶ぶっとんでます。
  故にそのネタは書かなくてヨシ!いぇいっ!
  絵茶ご一緒した方、ありがとうございました。グフグフ。悦。
  …………あの、書くの遅くてすみませんでした…。
  05.5.11 けっぱ