いきなりだ。 「なあなあイギリス!俺ってセクシーかい!?」 アメリカの野郎が俺の家に押しかけてきて、俺の部屋に勝手に入ってきて、服を脱ぎだした。 顔を真っ赤にして、なにをしてるんだと問えば、意味の分からない問いで答えられた。 「……は?」 「ほら、俺のところはムキムキだとセクシーに見られるって話はしただろ?」 あまりにも突飛な質問に何も言えなくなった俺に、奴は仕方がなさそうに説明を始めた。 いや、なんだよその態度は。俺に理解力がないみたいな顔しやがって。そうじゃなくて、お前に説明能力がないだけだろうが。 今聞いてやってるのだって、お前が何を言ってるのか理解してやろうっていう大人の余裕の現れなんだからな! 「あんまりにもメタボメタボ言われるからこんな風にした病院を訴えてやろうかと思ったら、俺のは脂肪じゃなくて筋肉だって言われてさ」 「ああ、そんなこともあったな」 紅茶を啜りながら聞いてやる。 まあヒーローの俺がメタボな訳ないんだけどな!と胸を張るアメリカ。この前はぷにっと肉が掴めたのに、日本のところでダイエットしたのか、すっかり男らしい体になっていた。 体重が逆に増えたとかなんとか聞いてたが…なるほど、鍛えすぎて逆に筋肉がついたのか。 「でさ、君にひとつ聞きたいことがあるんだ」 ぐい、と顔を近づけられる。大きな青い瞳の中に自分の驚いている顔が映ったから、なんだか恥ずかしくなった。 「な、なんだよ」 その瞳を真っ直ぐ見ることができなくて、顔を背けながら突き放す。うわ、動かねえし。ほんとに厚くなったな、胸板。これ以上怪力になってどうすんだか。 俺がそんなことをしみじみ思っているとは知らず、口を開いたアメリカはまた馬鹿なことを言いやがった。 「エロ大使の君にさ、俺は本当にセクシーになったのか聞きに来たんだよ!」 「ばっ…おまっ……え、はあああっ!?」 「フランスのところにも行ったんだけどさ、そういうことは新セクシー担当に聞けって言われて」 くそ、あのフランスの農業野郎…ニヤニヤしながらアメリカにいらんこと吹き込む様子が目に浮かぶ。 後で、絶対シメる。 「ねえねえ、どうなのさ!俺は、セクシーかい?」 「ば、お前もいい加減に……」 早く早くと俺の袖を引っ張るアメリカの身体は、確かに形のいい筋肉がついていて。 それも、あまりにつきすぎて膨らんでるんじゃなくて、細さを保ったまま。 ジーンズだけを穿いたその身体は、なんというか、たくましいというか、うん、まあ、正直、その。 「眼鏡」 「え?眼鏡がどうしたん、だ…」 眼鏡がなくなり、キラキラとした瞳をきょとんとさせたアメリカは言葉をやめた。 その理由は、その口が使えなくなったから。 ふく、と言った。 右手に握っていた眼鏡を返してやり、Tシャツを投げる。 「着ろよ、ばか」 先程俺のと繋がった口をぱくぱくと開閉させるアメリカに背中を向けて、俺は大人の余裕で部屋をゆっくりと立ち去る。 しばらく歩いて洗面所に辿り着くと、冷たい水を真っ赤な顔にかけた。ひんやりして気持ちがいいけど、頭の中はぐるぐるとしていて、 ……あんなもん、他の奴に見せんな。ばか。 「……やっぱり、お色気担当は違うんだなあ…」 口許を押さえて、もう片方の手でTシャツを握ったアメリカは呆然と呟いた。 |