G8で、本田さんが何か大切なことを話していたときだった。
みんなは真面目に聞いてたり、半分寝てたりと様々。
で、僕は。
くるくる指に巻き付く髪を、ぼんやりと。

「あ、あの、フランシスさん」
「ん?ああ、マシューか。どした?」
会議の後に声をかけた。ぱちぱちと瞬く、僕と(そしてアルフレッドと)おそろいの青い瞳。
「いや、ちょっと見かけたので…」
えへへと頭をかきながら笑う。
うそつきだ。本当は、始まった時から目で追いかけてたくせに。
「なんだなんだ、おにーさんも好かれたもんだなあ」
「そ、そんなのじゃあないですよ!」
慌てて否定する。フランシスさんにとってはいつもの何でもないジョークなんだろうけど、僕は、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしい。
プシューだなんて音を立てそうな顔を意識しながら、なんとか会話しようと話題を探す。
えっと…えっと…最近、起こったことは…。
「あっ、そうだ!あのですね、クマ吾郎さんがですね」
「クマ吾郎?ああ、あの白クマね」
「ええ、そのクマ吉郎さんなんですけど、なんとまつげが可愛いんですよ!!」
もうそれだけで一日が過ごせちゃってー、とガッツポーズと共に叫んだ。
よし、フランシスさんだって可愛いものは好きなはずだから、お話できるはず……
「……マシュー」
「はい!」
名前を呼ばれて、わくわくと顔を向ける。
えへへ、もしかして、見に来たいなんて言ってくれるかなー。なんたってあのかわいいまつげだもの!そしたら家に招かなきゃ。あ、そのためには掃除をして、紅茶にたっぷりメイプルシロップを入れて、アルフレッドに邪魔されないようにして、美食家のフランシスさんのお口にも合うように何か料理を考えて…。
「たまには、他の人と会話しろよ…?」
「へっ?」
そんな甘い妄想まで繰り広げてた僕にとって、フランシスさんが放った言葉は予想外のものだった。
「そんなことに一日費やさないで、アルフレッドとクマ以外とも遊びなさい」
「え、いや、僕はただ、クマ一郎さんが可愛くて…」
「全く、おにーさんのところばっかり来ると思えば…アーサーだってお前のこと忘れてる訳じゃないんだぞ?」
め、めいぷる…!なんだか勘違いされたみたいだ!
確かに僕は休日をもらっても、大抵は家でクマ三郎さんと過ごすか、たまにアルフレッドと遊ぶかだ。
だけど!
「違います!僕は友達がいない訳じゃありません!」
「いやいやいや、おにーさんの前では強がらなくていいよ?ほら、分かってるから」
そんな、僕をアーサーさんみたいに…!そりゃ僕だって英領だったけれど、連絡をすれば会って遊べる人くらいはいるんだから違うのに。
「この会議でだって、フランシスさん以外にも話せる人はいるんですから!」
『寂しい奴』なんて印象だったなんて心外だ。フランシスさんは優しいから、無駄に気を遣うし。
でも僕は、そんな勘違いをされたまま生暖かい目で見守られたくなんてない。
ぷんぷんと憤慨すると、ぱちくり目を瞬いたフランシスさんは不思議そうに言った。
「じゃあお前、なんで俺のとこばっかり来るんだ?」
口を開くけれど、言葉が出てこない。そんな、質問。
何も言えなくなってうつむくしかなかった僕に、調子でも悪いのか?と優しく顔を覗き込んでくる。その長い髪がはらりと垂れたのが分かる。
だ、だってだってだってだって。
「ひっ、ひみつ!です!」
どん、とフランシスさんを突き放してその場を離れて駆けていく。
本当に、本当に会議にはアーサーさんやアルフレッドや、他にも話せる人はいるんだ。
でも、だって、だってだって、フランシスさんは僕と同じ髪をしているから。
あなたは僕を見てちゃんと名前を呼んでくれるから、なんてそんなこと、






言える訳がない!




「…なんだ…?」
取り残されたフランシスは、あごに手を当てながら考えた。
「あ、そうか」
しばらくしてから、ぽん、と手をついて何かに納得したように独り言。
「正直には恥ずかしくて言えなかったのか。兄貴に似てんなー…う〜ん、今度遊びに行ってやろうかなあ…」
どこかずれた解釈をされたが自分の妄想が実現しそうなことなど、マシューは知る由もない。




08.10.30(続く…かも?)