「コロちゃん、これ着てください」 「え、な、なんでだコロン!唐突に!」 「今、これを着るのが流行りなんですよ?知らなかったんですか?」 「え……そ、そうなの?別に知らなかった訳じゃあないけど…」 夕方、そう言いくるめて女物の着物を着せた。きっとコロちゃんのことだ。着るのに時間が掛かるだろう。 静かなうちに夕食を作ろう。今夜はハンバーグだ。 「あれー……コロ助遅いな」 「いつもは食事の時間になると飛んでくるのにな」 そして夕食の時間。まさか、誰一人だってコロンが変な格好をしてくるとは思わないだろう。 「やっほーい」 ドアが開いて、聞き慣れたうざい声が耳に入る。 うまく着こなせていないのか、くずれた着物姿のコロちゃんが姿を現した。 全員、沈黙。 「あれ、あれれれ?今日はハンバーグ?わーいわーい!」 皿を持ったまま、また、パラパラを踊り始める。 「何踊ってるんです、……」 か。突っ込もうとしたが、できなかった。 パラパラの激しい動きについていけず、着物が更に崩れ始める。 白い太股が赤い着物に見え隠れし、鎖骨のあたりに汗がたらり、と落ちる。 上気した顔。半開きの口。太股。脛。鎖骨。うなじ。 「イェーイ!」 脳天気に踊るコロちゃん。帯がそろそろと動き始め、ついに耐えきれずほどけた。 急な感覚の違いに戸惑ったのか、手からハンバーグが滑り落ちる。 「あ、あれ!?」 慌てて手を伸ばすが、もう遅い。 「またノーハンバーグ……?もうやだ……俺のハンバーグ……」 いつもいつも同じ事を繰り返しているのに、分からないなんて。今日もコロちゃんはノーハンバーグだ。 「ばかだなあコロちゃんは…」 少しの間をおいて、クルー達が言う。どうやらみんな、コロちゃんの艶姿に動揺していたらしい。 「ノーハンバーグいやだ……そうだ!君つくってよ!」 涙目のコロちゃん。帯のない着物はもはや前を隠しておらず、がっちりしていない胸が丸見えだ。 「……そうですね、料理しましょうか」 「えっほんと!?コック大好き!何作るの?」 ばっと顔をあげて厨房に付いてくる。くずれにくずれて露出した肩に手を置いて、ゆっくりとドアを閉めた。 この後二時間くらい、コロちゃんは夕食を食べられなかった。 (誘ってたんですよね、提督)(え、何、なんのこと…?) |