おにいちゃん

おにいちゃん

ねえ、おにいちゃん



「なあ二郎、ゲームしないか?」

コントローラーを持って部屋に入ってきたのは、媚びるように卑屈な笑みを浮かべるお兄ちゃん。
……媚びる?
弟に?しかも、歳だってかなり離れているのに?
その言葉が面白くて、笑えてくる。ああ、我が兄ながら、なんて滑稽。

ねえ、それはさあ、僕が怖いから?それとも、そうしてほしいから?
いつからお兄ちゃんは、僕を怖がるようになったんだっけ?

「………二郎…?」

黙り込んだ僕を不審に思ったのか、お兄ちゃんは訝しげな声をしぼりだした。
ところどころ掠れる声。
心配するときでも僕に話し掛けるには相当な勇気を要するんだねえ、お兄ちゃん。

「かくれんぼしよっか。お兄ちゃん」
「うん、画面ばかり見るのも目に悪いしな」
そう言って何も知らずに微笑んだお兄ちゃんにぞくりとした僕は既に、正常なんかじゃない。







「こういう風になるってことが、考えられたはずだよね。お兄ちゃんは馬鹿だなあ」

手足を縛られて、ただただ転がるだけのお兄ちゃんを見下ろす。
いくら非力でもこの状態を回避するために殴る蹴るくらいできるはずなのに、絶対にしない。
この兄は――優しいんじゃなくて、弱いだけなのだ。
僕が弟だからというだけで、どれだけ縛られようが傷つけられようが手を出さない。
それは優しさじゃなくて、弱さだ。
相手を傷つけたくないがために抵抗できない弱さ。
だからお兄ちゃんは、それを分かっている僕にこうも簡単に捕まってしまう。

「…二郎…ッ!」
「ねえお兄ちゃん、」
どうして、の「ど」の形に開きかけた唇を確認しつつも、言葉を遮る。

ああなんて弱々しいのだろうか。こんな兄を外に置いておくわけにはいかない。
お兄ちゃんは一生働かなくて良いよ。みんなにこんな姿を見られるのが嫌だからね。
大丈夫、僕が何をしてでもお兄ちゃんを生かしてあげる。他の奴には殺させない。
ねえそうしたら何もしなくていいよ。文句なんか言われないで、僕とお兄ちゃんの好きなようにできるよ。
でもきっと可愛いお兄ちゃんのことだから、いやだって言うだろうね。
そのときはまたこうして、縛って、言うことを聞かせるしかないのかなあ――?

無精髭の生えている顎を強い力で上に向かせて、囁いた。



「お兄ちゃんは、僕のモノだよ」



はっと息を呑む兄は目を見開いていた。ああなんてひ弱でいじらしいのだろう!
大好きな大好きな僕のお兄ちゃん、ねえ、ずっとずっと僕のお兄ちゃんのままでいて?







お兄ちゃんは僕のモノ



07.05.01(ゲーム兄弟、と言い張ります)