エレベーターに乗ると、中に太子が居た。 「うわ、嫌っ……」 「い、嫌ってなんだよ!」 そんなやりとりをして、ボタンを押す。ここは最上階で、一階まで降りるのには時間が掛かるだろう。 「はあ……外は綺麗だなあ」 「太子が汚れてるんですよ」 「汚れてないぞ!あー犬飼いたい」 このエレベーターは外が見える。どこの家も明るく、夕食でも食べているのだろうかと羨ましく思った。僕はまだ、仕事をしているのに。 外を眺めていると、ぽつりぽつりと電気の消える家が増え始めた。 「僕も早くかえ…」 りたいですよ。 とは言えずに、声にならない悲鳴を上げる。 「な、何だ!?」 突然の振動。エレベーターが止まり、真っ暗になる。何も、見えない。広がるのはただ、闇だけ。 「い……妹子?妹子ぉぉ〜!!」 「太子!僕はここですよ!」 ばたばたばたと、太子が慌てふためく姿が見えるようだ。手を掴み、引き寄せる。 「うわああ妹子ぉ……私もう駄目だ…妹子が見えないぞ…」 僕を発見して安心したのか、ぎゅっと抱きついてくる。痛いほどに。それほど、怖いのだろうか。 「落ち着いてください太子。停電か何かでしょう。すぐに非常用電力、が……」 パッと電気が点く。太子は点いた今でも僕に抱きついてくる。 「…うざいですから離れてください」 「わ、私は摂政だぞ!怖くなんかないぞ!」 「怖いんですか……」 「なっ何故分かった!?」 涙を溜めた目が語っている。 それにしても、急な、それに大規模な停電だ。外は真っ暗になっている。もしかしたら復旧も遅れるかも知れない。 ということは、その間太子と二人きりか…くさそうだな…いや今はそれより、出られる方法を考えよう。エレベーターの上って開くんだっけ…… 「い、妹子!出られなかったらどうしよう!」 真剣に出られる方法を考えているというのに、この人は!! 頭にきたから一発くらい殴って黙らせようかと思い始めたら、太子がブルブル震えながら僕のジャージを掴んでいた。 「いもこぉ……このまま誰も助けに来ないかもしれないぞ…!?」 いつもの馬鹿みたいな明るさはどうしたのかと言いたくなるくらいの怖がりようだった。 ハァ、と溜息を吐く。アホの太子はショックを受けた様子だ。いい気味。 「お前、人が真面目に考えている時に溜息なんて……!?」 頬に手を添えて、少し長いあいだ唇を重ねた。 太子は赤くなって、声も出ないのに口をぱくぱくと動かす。 少しきついことを言おうと思っていたが、太子の顔を見て、おかしくて微笑んだ。 停電も、悪いものではない。 |