ある日のこと。曽良君との部活(私が顧問だもんね!エッヘン)俳句同好会に、職員会議で少し遅れた。 そ、曽良くん怒ってるかな……?く、首締められたらどうしよう…! 「そ、そーらーくぅーん、松尾、松尾だよー」 おそるおそるドアを開けると、曽良君がこちらに背中を向けていた。 「おーいおーい!!曽良君?曽良君ってばぁ」 無視を決め込んでいるのかと思い、揺すってみる。 「邪魔ですからやめてください」 「グハァー!?」 横に大きく揺すっていたら、断罪チョップが飛んできた。 い、痛い……お腹が割れそうだ……。 「音楽を聴いていたんです。ノイズキャンセリングのヘッドホンですよ。知らないんですか?」 曽良君は私の背中に足を乗せながら、見下したような目で冷たく言った。 そういえば、曽良君は手にヘッドホンを持っている。結構、大きい。 「わ、私だって知ってるやい!」 「そうですか。それでは僕は音楽に集中しますので何もしないでください。何か言っても聞こえませんから」 それだけ言って、また曽良君はヘッドホンをして何かを聞き始めた。 「………な、なんだよ曽良君のバカー……」 口を尖らせてちょっと文句を言ってみても、曽良君は反応しない。 「曽良君のいじわる」 「曽良君のちくわ好き」 「曽良君の……えーとえーと」 いろいろ言ってみたけれど、本当に聞こえていないみたいだ。いつもならこの時点で蹴られるのに。 目を瞑っている曽良くん。何を考えているのかすら分からない。 「なんだ、本当に聞こえてないのかぁ……松尾ガッカリ」 そもそも、この学校ってヘッドホンなんか持ってきて良かったっけ……?まあいいや。 曽良君が相手してくれないなら、つまんないなあ……何しようかなあ…… 「ねえ。曽良君」 曽良君は答えない。 「つまんないよう」 曽良君は答えない。 「私ね、曽良君」 曽良君は答えない。 「曽良君のこと好きだよ」 曽良君は答えない。 「や、やだなあ恥ずかし〜〜!!松尾恥ずかし!」 恥ずかしくなって、頬を押さえてその場にしゃがむ。 私、何を言っちゃってるんだろう……あー、曽良君が今音楽聞いてて良かったー…… 「芭蕉さん」 「わっ」 「やましいことでもあるんですか?そんなに慌てて」 「ななななんでもないよ!」 急に後ろから話しかけられてびっくりした。まだ頬に熱が残っている。 「ねえ、芭蕉さん」 「な、なに?」 ゆっくりと、曽良君に話しかけられた。この子は綺麗な瞳をしている。 見つめられると、動けなくなってしまう。 彼の紡いだ言葉が生みだしたものは、 「僕も好きですよ」 私の真っ赤な顔と引き替えに、滅多に見ない君の笑顔。 (そ、そそそそらくっ、き、きいて) (ハァ……ノイズキャンセリングというのは、全く聞こえない状態になるのではありませんよ) (そ、そうなの!?きみ、だ……騙したな…!) (芭蕉さんが勝手にそう思いこんだんでしょう?僕のことが……なんでしたっけ?) (そ、曽良君の鬼弟子ー!) |