「今年ももう終わるのかあ……」
「ええ。さぼらず掃除してくださいね」
「さ、さぼるわけないだろ!?よーし松尾頑張っちゃうからね!今年最後の松尾ファイナルオーラ発動!」
今年も、今日で終わりとなる。
大掃除。本当は昨日のうちに終わらせようと思っていたのだけれど、なかなか終わらず少し残ってしまったのだ。

カビやアカの残る風呂場。体を綺麗にする為の場所なのに、こんなに汚かったとは。
「よーし頑張るぞ!」
腕まくりをし、気合いを入れて取りかかった。見違えるほど綺麗にしてやる!

***

「………よしっ!こんな感じかな!」
水を流す。最初の状態と比べたら、かなり綺麗になったと思う。
ついつい嬉しくて顔がたるんでしまう。
「うっほほーい!私だってやればできるんだもんね!!」
「……終わりましたか」
「わ、曽良くん!」
喜んでたら、いきなり背後から話しかけられた。もう、びっくりするなぁ。
……あれ?そういえば、曽良くんは何をしていたのだろう。
「ねえ。曽良くん今まで何してたの?」
「え?年越し蕎麦食べてましたけど……」
「な、何だって!?師匠が頑張って大掃除してたのに!?」
「僕は師匠だって認めてませんから」
「な、なんてヤツだ……弟子男のくせに……ゴギャー!ごめんなさい私が悪かったです!」
文句を言ったら、断罪チョップをお見舞いされた。

「……芭蕉さん」
「何?」
今年も弟子に蔑まれたまま終わるのかなあ……とちょっぴり寂しくなって、少しだけ涙が零れそうになったとき。
「……!!」

唐突に。何の前触れもなく。


口を塞がれた。

「そ、そりゃくっ」
急な展開についていけなくて、顔を真っ赤にさせながら彼の名前を呼ぶ。
慌てるがあまりに、舌が回らなかった。殴られるかな、と身を強張らせる。
「今更何を……処女じゃあるまいに。そんなに顔を赤くしているんですか」
「しょ、処女って君」
「芭蕉さんなんて、ただの薄汚いおっさんでしょうが」
私の熱くなった頬を冷やすような言葉。

確かに、それは、そうなんだけど。

何か反論する言葉を探していたら、曽良くんはクスリと笑った。
普段は滅多に見せない、美しい笑顔。

「芭蕉さんの姫始めは、僕が頂きますね」


顔を真っ赤にさせた私の口を再び曽良君が塞いだのは、これから五秒後のおはなし。










06.12.31(今年最後は蕎麦でした。最後までえろおち)