「あっくん、今日は何か食べたいのある?」 今日は、平介のおつかいに付いていった。 フラフラとしている平介はまっすぐに言われたお店には行かず、たいやき屋に寄ったりケーキ屋に寄ったりと、秋よりもお使いができていないかのように見えた。 鈴木がいたら思いっきりしばかれていたであろうそんな平介に呆れることなく、秋は目をきらきらさせて平介の行くところについていく。 「お兄ちゃんと仲が良いのね」 行く先々でそう言われて、よく秋の頬は赤くなった。 憧れの平介と仲が良いというのは、秋にとって誇らしくて、照れくさいことだった。 「もうたべた」 「あ、そっか。たいやきね」 並んで歩いている帰り道。 さっきたいやきを食べたばっかりなのに、なんでそんなことを聞くんだろう。 ちょっと首を傾げると、残念そうに呟く声が聞こえた。 「そっか……あっくんくらいだともう満腹なのね…」 どうやら、高校生であるところの平介はたいやき一つではお腹が膨れないらしい。 「もっと食べたいなァー…」 ちょっぴり目尻に涙が浮かんでいる顔を見て、秋はちょっと考える。 『無理してない?』 お父さんの言葉を思い出す。 勇気が出なくて繋いでいない、自分とは違う大きなてのひらを見つめる。 その手はいつも秋のことを包んでくれる。あったかくて。やさしくて。 平介は楽しいって言ってくれたけれど、でも、やっぱり無理をしているのかもしれない。 「……たべる」 「え」 「へーすけのおかし、たべたい」 ぎゅっ、と手を握って言う。 平介が食べるなら、食べたかった。 いつも平介がしている無理を、したかった。 「でも、あっくんもうたいやき食べたよね?」 突然意見を変えた秋に、びっくりした平介が立ち止まる。 普段は素直に言うことを聞くし、めったに変なことを言わない秋だ。 流石の平介も、疑問を抱いたらしい。 「あっくん、どうしたの?」 かがんで、同じ目線で聞いてくる。 確かにさっきのたいやきでお腹がいっぱいだった。 「夕飯が食べられなくならない?」 「……」 たぶん、食べられない。 黙り込んでしまった秋に、平介は困ったなという顔をする。 「んー…」 顎に手を当てて考え出すのを見て、秋は慌てる。 「めーわく?」 そんなつもりじゃなかったのに。 やっぱり自分は、平介を困らせてばっかりなんだろうか。 「あっくん」 俯いて、泣きそうになる。 どうしよう。平介を困らせてしまった。 「あのね、あっくん」 沈んでいく秋に、いつもよりなんだか優しい平介の声がかけられる。 「おかし食べてくれるのは嬉しいけどさ」 ぽんぽん、と頭を撫でられる。やっぱり平介の手は大きくて。 秋が顔を上げると、困ったように笑う平介と目が合った。 「あっくんが苦しいのは、嬉しくないよ」 その日の夕飯。秋はお母さんお手製の甘いカレーを上機嫌で食べていた。 明日は俺とあっくんでおかし作ってさ、それ食べようよ。 いっぱい作るから、俺もあっくんもお腹いっぱいになるよ。 平介との明日に、目を輝かせながら。 |