1.シャーネ、お弁当をつくる(クレシャ同居設定)
 
 「ん?」
 その日、クレアは恋人と過ごす休日を楽しんでいた。
 するとシャーネが、『お弁当の練習をしたい』と言ってきたのだった。
 クレアとしては二人でラブラブに過ごしたかったのだが、恋人の頼みでは断れない。
 それに、何よりシャーネの手作り弁当がとても楽しみだったのだ。
 「子供産んだら、ピクニックとかに連れて行こうな」
 子供と3人で出かける様を想像して、自然とクレアの顔に笑みが浮かんだ。
 だが、シャーネがキッチンに入ってからもう一時間。
 「そろそろ、出来てる筈だよな……」
 もしや、失敗して困っているのだろうか……?
 心配になったクレアは、こっそりとキッチンを覗くことにした。
 私室から廊下を渡りリビングに行き、そこからこっそりと覗くことに。
 そうっとドアを開けると、鼓膜が破れそうな爆音が響いた。
 ………。
 「シャーネ!!」
 愛する婚約者に何かあったのでは、と思い、クレアは血相を変えて飛び出した。
 だがキッチン(+リビング)には何ともなく、あえて言うならば、少し鼻に来る異臭がしていた。
 クレアが愛しのシャーネは何処にいるのかきょろきょろと探してみると、キッチンでうずくまっていた。
 ……ナイフを持って。
 「どうしたシャーネ、何があった」
 真剣な瞳をして聞くクレアに、シャーネは答える。
 「……」
 「鍋の側面が、爆発した……?」
 見ればナイフを持っていない、もう片方の手には金属の円盤が握られている。
 もしやこれが、
       「鍋の底か…?」
 こくり。
 「……分かった。お前がそう言うなら、そうなんだろう」
 困惑した金色の瞳を向けて、シャーネは再びこくりと頷いた。
 「しかし……今日のメシ、どうするか……?」
 鍋がないと、困る。
 「……」
 「ちょっと待てシャーネ。とりあえず今日は、アルヴェアーレで一息おこう」
 「……」
 「そう言うな。メシはいつでも作られるからな。あそこのカミさんに二人で料理を教わろうじゃないか」
 「……!」
 クレアがそう言い、シャーネは嬉しそうな目をして微笑んだ。
 愛する愛する婚約者に、いつか自分の手料理を食べさせようと。
 
 
 その後二人は新しい鍋を調達して、アルヴェアーレの女店主セーナに一から料理を教わったという。
 
 
 
 
 
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 2.私の居ない間、旦那は子供に食事をあげてるかしら……
 
 
 「フィーロさん」
 「エニス、どうしたんだい?」
 珍しく何もない休日に、エニスがフィーロに話しかけてきた。
 「その……今からちょっと出かけなければいけないんですが……」
 「ん?」
 何だろうと、フィーロは不思議に思う。
 「チェスくんの、昼食を作って貰えますか?」
 「ああ、いいよ」
 
 
 そうやってフィーロは簡単に承諾したのだが………
 
 「………カレーって、どうやって作るんだ……?」
 キッチンで出した鍋と野菜の前で、フィーロは悩んでいた。
 エニスに安心して出かけて貰えるよう、承諾したのは良いのだが。
 彼はなんと、カレーの作り方を全く知らなかったのだ。
 「何やってるの?フィーロお兄ちゃん」
 キッチンで唸っていると、トコトコとチェスがやってきた。
 丁度良いと思い、聞いてみることにする。
 「いや、カレーの作り方って知ってるか?」
 「常識だよね」
 「あ、ああ……」
 あっさり言われ、たじろぐ。
 「もしかしてお兄ちゃん、分からないの?」
 「…………(この居候!)うん……」
 その居候に、完全に見下されている自分は一体……。
 しかしこの現状を切り抜けるためにフィーロは頷く。
 「はあ……よくそんなので生きてこれたね」
 「食わして貰ったりしてたから…」
 「子供に料理を教わってどうするのさ」
 溜息混じりに言ったチェスに(悲しくも正論)顔が引きつるのを感じながら、フィーロはぼそりと言った。
 「……教えろ」
 居候の子供相手にものを頼む。
 それは中々の頑固者であるフィーロにとって、かなりの屈辱であった。
 「何?」
 「俺に、カレーの作り方を教えろ」
 だがしかし、フィーロより長い長い時を生きてきたチェスは、それでは足りなかった。
 「それが教わる態度?」
 馬鹿にしたような目つきで(否、馬鹿にしている)言うチェス。
 「教えてください」
 「あ?ごめんもっかい言って」
 勿論聞こえないのではなく、明らかにわざとである。
 「お・し・え・て・く・だ・さ・い!」
 それでもフィーロは、エニスの頼みをやりとげる為に頭を下げた。
 「チェスエフさま」
 「教えてくださいチェスエフ様!!」
 「じゃあ土下座して」
 「くっ……お、お願いしますッ!!」
 (全てはエニスのためエニスのためエニスのため……!)
 
 その後フィーロはチェスの心ゆくまでやられたという。
 「フィーロ、チェス君にちゃんと何か作ってるでしょうか……」
 夫の心、妻知らずというか、なんというか。
 
 
 
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 3.包丁なんて使いません、全てハサミです!
 
 
 ガンドール・ファミリーのアジト……事務所では、ニンジンを前にチックが考え込んでいた。
 現在事務所に居るのは、マリアとチックの二人。
 「どうしたのチック?ほらほら早く切らないとみんな帰って来ちゃうよ!アミーゴ!」
 にこにこと笑いつつ、手はムラマサーミァで玉子を豪快に切っているマリア。
 どういうわけでこの二人が大量の野菜に囲まれているかというと、それはこういうわけだった。

 「それじゃあ私達は出かけてきますから」
 「兄弟水入らずだね!アミーゴ!」
 「遅くなるかもしれませんから、お腹が減りましたらご飯を食べてください」
 「じゃーなアミーゴ!」
 「さらばアミーゴ!」
 「達者でなアミーゴ!」
 「歯は磨けよアミーゴ!」
 「アミーゴ!」「アミーゴ!!」
 
 三兄弟が出かけ、そのあと幹部が出かけ。ついには二人だけになってしまった。
 しばらく花を切ったり、刀の手入れをしたりして時間を潰していた二人。
 だがマリアが暇すぎて耐えきれなくなり、
 「ラックたちが帰ってきたらサラダをあげようよアミーゴ!」と言って作ることにしたのだった。
 どちらも「切る」二人なので、サラダにしたのは正解といえよう。
 だがしかし、チックは考え込んでいた。
 「うーん、マリアちゃん」
 「何?」
 「ニンジン、どんな形が良い?」
 そう、チックが悩んでいたのは、ニンジンの形であった。
 まるで息子のお弁当を作る主婦のような悩みであるが、マリアも真剣に考え始める。
 「……えーと、動物とかはどうかな!アミーゴ!」
 「動物かあ……うーん、うさぎとか?いや、うさぎは可愛いけどダメかな……猫…違うなあー」
 その後も暫く動物談義が続き、
 「じゃあ、うん……あ!」
 ずーっと悩んでいたマリアが、突然嬉々とした声をあげた。
 「えっとね、キースのトランプはどうかな!」
 「トランプかあ、うん、キースさん喜んでくれそうだねー」
 そういって早速ニンジンをスペードの形に切り始めるチック。
 にこにこにこにこ。
 にこにこにこにこ。
 マリアとチック、無邪気な二人の刃物使いは、笑みを絶やさない。
 それはハサミで固いニンジンを切ったり、次々と野菜を日本刀で切っていく姿ではあったが。
 なんともなんとも、微笑ましくほのぼのとした光景であった。
 
 ただ、帰ってきたラック含むガンドール・ファミリーの面々が喜ぶかどうかは別なのだが。
 それはまた、ラックのイライラが増えたということで。
 
 
 
 
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 -----後書き。
 1/29に白鷺さんのところの絵茶で投下したものを加筆修正しました。
 最初からサ◎えさん風味に三本立てのつもりだったのですが、時間の都合で二本しか書けませんでした。
 何人か出て行かれた後だったのが悔やまれます……!!もっと早く書けるようになりたいです。
 実は、酒は二回目のチャレンジ……!(一回目も絵茶でした/散々だった)
 うーん、アイラブチェスさま(…)が黒くなったのでヨシかと…!
 最初は私、「橋かな……!」と思って節分のを書いていたのですが(もうちょいでUPします)
 ドラマCD化記念というものがありましたね……!素敵絵が見られてお腹いっぱいです…!
 
 06.01.29 けっぱ