「……兄さん、か」

ロロがいなくなってしまった。







まるで心が抉り取られたかのような痛み。心臓、そう、心が痛くなると痛くなるところ。あいつはいつも俺を守る度に、ここを痛めていたのだろうか。
黒の騎士団として闘うときも、学園のみんなから隠すときも、ヴィレッタを追い詰めたときも、ナナリーと電話したときも、……俺の言葉を無視したときも、
自分が本当に大事な人として見られていないということを、あいつは知っていた。
自分が兄の本当の妹の代わりにすらなれていないということを、あいつは知っていた。


俺は何を思っていたんだろう。
きょうだいと離れる苦しみは、誰よりも理解しているはずなのに。
あいつにとってのただ一人である俺の心が向いていないことを知っていたあいつは?
すぐ傍にいるのに、離れている心を知っていて笑っていたあいつの気持ちは、どんなだった?


ギアスを使う度に得られた心の臓の苦しみは、今の俺なんかには分からないほどだっただろう。
植え付けられたものとはいえ、あいつにとっての全てに心の底から憎まれていると知っていながら。


俺だったら?
ゼロとしてナナリーに会ったときの衝撃を忘れてはいない。
自分が一番大事な存在の障害になっていると知ったときに、あんなに穏やかに笑えていたか?
そのことを直接俺にはぶつけずに、ひたすら俺のために動いたんだ。
シャーリーのこと。
許せるわけがない。大事な存在であるシャーリーを殺したロロ。
でも、それは、俺に会ったとき、あいつは何と言ったっけ。忘れてしまった。でも、

俺のために殺したんだ、と偉いことをしたから褒めてくれと言わんばかりに笑ったのは覚えてる。



「馬鹿だなあ、ロロは……」


ナナリーの救出を任せていた。
その気持ちは、どうだったんだろう。もしかしたら、ナナリーを殺そうとしていたのかもしれない。
もしそうなっていたら、俺は真っ先にあいつを殺したんだろう。
そしてあいつはきっと言うんだ、




どうして、兄さんには僕がいるよって。




ああ、お前は確かにいた。
俺が優しくしたときも、嘘をついたときも、落ち込んだときも、ナナリーのことを想っているときも、ゼロであったときも、本当にお前のことを駒としか見ていなかったときも、いつだって、










ああ、お前は確かに傍にいた。
「どうしてかな、ロロ。お前の兄さんは涙が止まらないんだ」





08.08.17(ロロがいなくなっただなんて嘘だとしか思えない)