あのね、シズちゃん。俺は、どんなシズちゃんでも……大好きだよ?




【シズちゃんと俺とちっちゃなシズちゃん 小さな君に大きな愛!】



俺の仕事場兼家であるマンション。
ベッドから見えるのは、パソコンや書類、デスクに椅子、ハンガーに掛けられたコート。
昨日とも一昨日とも、その前とも変わらない光景。
ベッドに大の字で寝転がった俺は、見えるものすべてに溜息を吐いた。
「何をセンチメンタルに浸っているのかしら。もしかして、中二病?」
「覚えたての言葉だからってやたらと使いたがらないでよ…」
呆れたような大人の女の声に返す。
今聞きたいのはこんな声じゃなくて、もっと低くてかっこよくてかわいい声なのに。
「仕方がないじゃない。今日までの仕事だったんだから」
そんな俺の思いも知らずに波江は冷たく言う。
確かに、情報っていうのは渡す時期なんかによって大きく変わる。
それを扱っているんだから、自由に時間が取れないこともある……けど!
「だからって、なんでシズちゃんに一週間も会えないのさあ!」
そう、ここ一週間、おれは一歩たりとも新宿から出ていない。
もちろん、池袋にいるシズちゃんの姿は、一度も見ていない。
「しかも終わったのこんな時間だし…」
今は真夜中もいいところ。
俺調べシズちゃんの行動スケジュールでは、この時間はぐっすり寝てるはず。
それに、俺もちょっと疲れてて、眠い。
なんにもない天井を眺めていると、コートを纏った波江が追い打ちをかけた。
「あなたが手を休めず仕事すればもっと早く会えたかもしれないのにね」
「うう…」
波江の言うとおり、俺はよくパソコンの画面から目を離していた。
だって、だって。
……抑えきれないんだ…。
五分に一回はシズちゃん人形(メイドイン俺★)を抱きしめたりシズちゃんの写真を眺めたりときどきその写真に…っ……ち、ち…ちゅーしたり(キャー!)しないと心が落ち着かないんだもん!
そう反論しようと口を開くと、パタンとドアの閉まる音がした。

「……さみしい」
ぽつりと呟いて、ごろごろとベッドで転がる。
枕の下から、一枚の写真を取り出す。
しかめっ面をするシズちゃんとは、目も合わない。
ねえ、喋ってよ。
ばかって言ってもいいからさあ。
…好きって言わなくてもいいからさあ。
「俺のこと見て…」
胸が痛くて、でもどうしようもなくて。
シズちゃんにはやく会いたい。
そう思っていたら、俺はいつのまにか眠ってしまっていた。
その日、シズちゃんの写真はいつものように枕の下ではなく、俺のてのひらの中に収まっていた。


なんだか、あたたかい。
だけどちょっと、なんだろう…毛のような感触がある。
うっすらと目を開けると、俺は何かぬいぐるみのようなものを抱いていた。
「ん?」
シズちゃん人形にしては丸いし、なによりこんなにぷにぷにしていない。
恐る恐る手を離してみる。
小さなシズちゃんの顔があった。
「……夢?」
朝起きたらシズちゃんが隣にいる、っていうのがまずありえない。
それどころか、シズちゃんの顔だけ…っていうとちょっと気持ち悪いけど、かわいいシズちゃんのぬいぐるみみたいなのがいるなんて。
俺はこんなぬいぐるみ作った覚えがないし、しかも感触が生きてるみたい。
「いざや」
どうしたものかと考えていると、ちっちゃいシズちゃんがしゃべった。
「うわっ!?」
しかも、俺がよく知ってる、シズちゃんの声そのもので。
あまりの衝撃にぼうっとしていたら、なんだか焦げているようなにおいがした。
「…え……ちょっ、タバコ!!」
「?」
ちっちゃなシズちゃんはきょとんとしているけれど、においの元は明らかにちっちゃいシズちゃんがくわえているタバコからだ。
その灰がベッドシーツに落ちて、副流煙とは違う煙が立ちはじめている。
慌てて布団を被せて、沈下させる。
なんとか火事にはいたらなかったものの、小さく黒い跡がついてしまっている。
「あーあ…」
結構いいシーツだっただけに、俺の落ち込み方は半端じゃない。
さすがにこれは落ちないだろう。
「もう、何てことするのさ!」
怒りをそのまま原因であるちいさなシズちゃんにぶつけると、ちいさなシズちゃんはまるでシュンとしたかのように、眉を下げた。
「いざや……」
小さく、不安そうな声でおろおろと俺を見つめる。
その声が、サングラスから覗く瞳が、あんまりにも俺の知ってるシズちゃんに似てたから。
俺は怒っていたのも忘れて、ちっちゃなシズちゃんを抱きしめてしまった。
「ごめんね…っ!」
ちっちゃなシズちゃんに頬ずりする。
俺はどうしてこんなに可愛い子を怒ったりなんかしたんだろう…!
猛烈に後悔する俺に、ちっちゃいシズちゃんは戸惑っていたみたいだけど、そのうち笑顔になった。
最近のシズちゃんなら、絶対に俺には向けてくれない、純粋な笑顔。
俺の腕の中にいるちっちゃなシズちゃんは、にこにこと笑ってこう言ったんだ。
「いざや、すき」
それは、本当のシズちゃんなら天地がひっくり返ろうが言ってくれない言葉で。
俺が最も欲していた言葉で。
「俺も、大好き…!」
涙とか、鼻血とか、いろんな液体を溢れさせながら言う俺に、シズちゃんは照れたようにまた笑った。
それから俺達は、二人きりの一日を過ごして。
ちっちゃなシズちゃんを抱きしめながら、俺は寝た。


「ん…?」
目が覚めると、部屋の中には誰もいなかった。
日付と時刻を確認すると、大きな仕事が終わった次の日、午前九時。
「やっぱり、夢だったのか…」
腕の中には、何もいなくて。ただ、枕元にシズちゃんの写真が置いてあるだけ。
楽しかったのにな…。
普段のシズちゃんなら聞けるはずもない言葉が聞けたり、可愛い顔が見られたり。
「夢の中でしかできないなんて、俺も末期だよね…」
一人で笑う。
だって、あんなに仲が良かったシズちゃんも、現実では俺のことが嫌いなんだから。
はあ、と溜息をついたら、そのとき、硬い音が聞こえた。
コツ、コツ。
誰かが歩いている音。
「!」
それが誰かだなんてこと、すぐに分かった。
ど、どうしよう…!寝起きだし、着替えてないし、あっ、しゃ、写真と人形は隠さなきゃ…!
慌てて身の回りを整理して、どうしたらいいか分からなくなってとりあえず布団の中に入る。
だ、だって、そんな、朝起きてすぐに顔を見られるなんて…!お、俺に会いに来てくれるなんて…!
もしかして起こしに来てくれたのかな…?
ドキドキしながら待つ。
あ、扉の前に立った。イライラしてる。
これくらいの距離なら離れてても分かる、シズちゃんの様子。
俺のドキドキが最高潮になった頃、シズちゃんはドアを蹴破って入ってきた。
「い〜ざ〜や〜くぅ〜ん…!」
低い声が響いて、この部屋に入ってくる。
「まだおねんねか?あぁ?」
「ちょっとシズちゃん…人の安眠を妨げないでくれる?」
「九時まで寝てて何言ってやがる。ちょっとムカついたから殴らせろ」
こんな朝早くから俺に会いに来たなんて…!
「全く、朝っぱらからいい迷惑だよ…」
「そうか、よし分かった殺…す…?」
そこまで言いかけて、シズちゃんは首を傾げた。
なんだろう。
「お前、タバコ吸ってたか?」
「へ?」
そんな訳ない…と言おうと思ったら。
シズちゃんの視線の先、俺のシーツには、黒い跡がついていた。
明らかにタバコの不始末のそれは、見覚えのあるもので。
「……フフッ」
「なんだよ、気持ち悪ィな」
怪訝な顔をするシズちゃんには悪いけど、思わず笑ってしまった。
ね、シズちゃん。
シズちゃんがもしまたちっちゃくなっても、ちっちゃいシズちゃんと今のシズちゃんと二人いても。
どっちのシズちゃんが目の前にいたって。
俺はどんなシズちゃんでも、大好きだよ?
だから、シズちゃん。
いつでもいいから、また俺のことを好きって言ってね☆




(ミニシズちゃん・イザイザセンサーに関しては哉子さんのサイトを勝手にパク…パロらせていただきました)
☆哉子さんに限りお持ち帰りオッケーです。
09.11.12 けっぱ