「俺もこんなふうになれたらなあ……」



【シズちゃんと俺 憧れのボディーライン☆】



ぺらりぺらり。パソコンの前で雑誌をめくりながら溜息をつく。
あーあ。俺もこんな体だったらなあ…そうしたら、そうしたらシズちゃんも……きゃー!
「いい加減にいすの上で顔を隠しながら回るのはやめてくれない?」
心底うざい。そう言いたげな顔で波江さんは俺を見つめた。
赤い顔で自分(とシズちゃん)の世界に入っていた俺が恥ずかしい奴みたいじゃない。
もう、波江さんったら恋する者の気持ちが分からないんだから…!
「しかも、そんなののどこがいいのかしら」
そう言って波江さんがつまみ上げた『そんなの』は、筋肉でしかできていないような男達の写真がたくさん載っている雑誌。
黒いパンツ一丁で何か塗ってるの?ってくらいギラギラ光る自分の体を見せているお兄さんとおじさん達。
別にえっちな本じゃなくて筋肉の雑誌なんだけど。

「そんなのって言わないでよ」
「気持ち悪いわ。こんなに筋肉があっても」
「そりゃこの人たちは気持ち悪いけどさあ」
わざわざ倒置法で言うほど気持ち悪いらしい。
まあ、そうだよね。俺もこんな人達は趣味じゃない。
どちらかというと一見すると筋肉なんて特にないような感じで、細くて、ひょろっとした大人しい感じに見えるんだけどナイフで服を切れば特に陽の光を浴びてる訳じゃないから結構白くてそして滑らかですべすべで思わず触っちゃいたくなるような肌と、ムキムキって程じゃあないけどいい感じについた逞しくてでもものすごい力が出るような筋肉がこんにちはするような体の持ち主の方がいい。
そして性格はツンデレで、強いんだけど結構臆病で、可愛くて、実はブラコンで…!
キャッ☆俺ったらこんなにシズちゃんのこと思ってるんだ…!

「……はあ」
悶えていたら、波江さんの溜息が聞こえてきた。
そんなに溜息ばっかり吐いてるから誠二くんに逃げられると思うんだけどなあ…。
「で?何だってこんなのを見てたのよ」
「何?興味あるの?」
意地悪に言ってみると、鼻で笑われた。
「私が興味あるのは誠二だけよ」
「よく言い切れるよねえ……」
まあ、俺だってシズちゃんが一番だけどね☆

「あのさあ、この筋肉見てよ」
「気持ち悪いわ」
「いやそうじゃなくてさ……」
俺は比較的筋肉が多そうなおじさんを指さした。白い歯を見せてこちらに笑いかけている。
りんごくらいなら手で潰せそうだなあ。
「これくらいの筋肉がついたら、どう思う?」
「気持ち悪いわ」
「まあ俺もこんな風にはなりたくないけど」
さっきから気持ち悪いわしか言ってないよ、波江さん……。
そう、こんな気持ち悪いくらいの筋肉はいらない。でもね。
「こんなに筋肉があったら、シズちゃんを押し倒せるでしょ?」
「……はあ」
二度目の溜息。なんでそんなに白い目で見るのさ…!
「でも平和島静雄だったら、こんな筋肉なんて意味がないでしょう」
「大丈夫、それは能無しが向かった場合。俺なら倒せるよ」
もしも俺にシズちゃんを押し倒せるだけの筋力があったら、あんなことやこんなこと……!!


「……臨也っ、手前……!」
「ねえシズちゃん」
「何すんだ!オイ!」
「ねえ、俺も結構力ある方なんだよ?知ってた?」
「放せよ…!」
「それにね、どこに力を加えるかでかなり違うんだよ?」
「お前…俺にこんなことして何が楽しいんだよ…!」
「決まってるじゃない。そんなの」
「ひっ……!?」
「こうしてシズちゃんが俺の下で怯えてる顔を見るとゾクゾクしてピーとかピーとかしたくなっちゃう


「ちょ、シズちゃん可愛すぎるよもう…!!」
「まずはその鼻血をどうにかして」
ひたすらときめいていたら、死んだ目でティッシュを渡してくる波江さんに遮られた。
よく見たら、服に血が。うわ、とりあえず脱がなきゃ。
「自分で洗濯しなさいよね」
「わかってるよ…うわ、口に入ってきた」

思わず出てしまった鼻血が付いちゃった服を脱いで、綺麗なものを探す。
あれ、半袖はどこに置いたっけ……

「いーざーやーくーん?」

半裸で服を探していると、突然ドアが開いた。
入ってきたのは、血管を浮かしているシズちゃん。

「手前セルティに何を吹き込みやがっ……た…」
いきなりの訪問に固まると、シズちゃんも血管をそのままに固まった。
「お前…な、」
「なにシズちゃん。いきなり不法侵入しないでよ」
シズちゃんが自分から俺の所に来るなんて…!
もしかしてシズちゃん…いやまさかそんな!
「……」
しかめっつらになりながらもドキドキしていると、シズちゃんは黙ったまま。
どうしたんだろう。
「ねえ、何か喋ったら?」
近づいて見上げると、シズちゃんは口をぱくぱくさせて、暫く変な顔をして。

「……こんの変態…!」

小さな声で何かを呟いてから、真っ赤な顔で玄関に置いてあった置物を破壊した。
「…は?」
何だか意味が分からない。首を傾げると、少しだけ破片が刺さって血の出た拳を握りしめて、シズちゃんはそのまま出て行った。
「何しに、来たんだろ…」
よく分からないけれど、あんなに真っ赤な顔で慌てたシズちゃんはなかなか見られない。
それに、池袋からわざわざ俺に会いに来るなんて……あ!
も、もしかして、照れて帰っちゃったのかな…?
シズちゃんったら、純情なんだから☆
「……そのポジティブな思考はある意味羨ましいわ…」
本日三度目の溜息を吐いた波江さんの冷たい視線の先で、俺はひたすら悶えていた。


俺には簡単にシズちゃんを押し倒せるだけの力はないけれど。
シズちゃんより体はずっとずっと貧弱だけれど。
でも、気持ちだけならシズちゃんだって負けちゃうくらいあるんだよ?
だから、シズちゃん。
いつか俺に押し倒される日を、どうか待っててね?




(シズちゃんにへんたいって言わせたかったんですすみません)
09.05.30 けっぱ