ぱちん!「もう嫌!!だいっきらいだよ君なんか!!」



【シズちゃんと俺 浴衣だ祭だ!夏真っ盛り!】



あーうざかゆいうざかゆい。ガリガリガリガリ!皮膚が削れる音がするくらいの勢いで、腕に爪を立てる。
本当に嫌い。嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い。滅亡しちゃえばいいのに!
え?何で嫌いなのかって?そんなの決まってるじゃん。
かゆいしうざいし!それにどうして奴の為に虫除けとかパッチとか買わなきゃいけないのさ!

そして……そして何より……俺が奴を嫌いな一番の理由は、


シズちゃんの血を存分に吸って、痕までつける図々しさ!


俺は知ってる。
シズちゃんの首筋に、ピンクの痕があること。シズちゃんがいつもそれを気にして、むずむずしていること。
むずむずしているシズちゃんは可愛い。思わず抱きつきたくなっちゃうくらい★
でも、でもさ……それが俺によってつけられたモノじゃないなら、すごく苛つくんだよね。
俺だってまだ吸ってないシズちゃんの血を、奴が吸ってるなんて…!嗚呼、神も非道いことをするものだよ。
だってシズちゃんは俺のモノなのに!……あ、言っちゃった☆

「……気持ち悪い」
「………ちょっと波江さん、勝手に人の部屋入らないでよ」
俺が頭を抱えて、赤い頬を隠すようにベッドに転がっていると、波江さんがドアから見ていた。
なんだか突き刺さるような視線。……もう、ちょっとくらいのおちゃめは見逃してよね!

「出かけるの?」
シュッ、シュッ、という虫除けスプレーの音。
けほけほ、と俺は若干吸い込んでしまって、むせる。ああミストの虫除けにすればよかった!
「こほっ、けほ……ごめん、何だって?」
「出かけるの?」
少し苛立ったような声で、波江さんは聞いた。……毎回俺に怒ってるよねえ、波江さん。
「そりゃ、浴衣着て虫除けまでして出かけなきゃ只の馬鹿だよ」
「貴方ならそれくらいはしそうじゃない」
「弟だって行くんじゃないの?今日は祭だよ」
ぴく、と波江さんが僅かに反応する。……知らなかったのかな?祭。
「これで貴方も出かけるから、今日は終わりよね」
「まあね」
そう言うと、波江さんは今までに見たことのないようなスピードで部屋を出て行った。
……まあ、いいか。
鏡の前でくるり、と回ってみる。……うん、大丈夫。変じゃ……ないよね?
少し不安げな顔をしている自分ににこりと微笑んで、俺はマンションをあとにした。



「はー……」
いざ祭会場に来てみたら、すごくすごく人が居た。
もう……こんなに人が居たら、動けないじゃない!
それでも何とか動こうとしたら、向かいから来た学生達が、がん、と肩にぶつかってきた。
「わっ」
睨み付けて、顔を覚えてやろうかと思ったのに、もう見えなくなっていた。
折角、浴衣を着てきたのに……。動きにくいし、来るんじゃなかったな…。
いつものコートじゃないと、俺が折原臨也だってことは分からないのかな。別に、服でキャラ作ってる訳じゃないんだけど…

「へい」
何故か飲み物屋でせっせと働いているドタチンも、俺だとは気付かずにコーラを渡してきた。
……。ちょっとこれは、むかつくなあ。

コーラを吸いながら、俺は木にもたれかかっていた。
疲れる……。蒸し暑いこの熱気の中、もう動きたくなくなった。あの中の何人がダラーズなんだろ……。


「なあ」
……ゆっくりと目を開ける。見ると、さっきの学生達が囲んでいる。
「おにーさん。ちょっとさあ、俺等に融資してくんね?」
「今金欠でさあ、万札くらいは持ってっしょ?」
……あー、カツアゲ?
「いやいや、オヤジ狩りっしょー?」
あーもう、無視無視。ナイフは持ってるけど、いきなり出すのもねえ。
「はやく出せよおっさん」
どさ、という音がして、俺は木に叩きつけられた。浴衣が、はだけたのが分かる。
「……っ」痛い。痛い。そろそろナイフを出そうか。斬ってしまおうか。
「なあ、いーかげんだしてくんねーとおれらもすげえこまるんですけドゥはッ!?」
俺の肩を押さえていた奴が、吹っ飛んだ。

「こんなところでなにしてるのかなあー」

声が聞こえる。強い声が。……これは。もしかして。

「いーざーやーくーん。ブクロには来んなって何回も何回も言ったろー?」


「シズちゃん」
俺はぽつり、と言った。他の奴等を殴り飛ばしているシズちゃんの後ろ姿が見えた。

「折角の祭だってのに手前の姿が見えたからよー、一発殴ってやろうかと……?」
あんなにも怒りに満ちていた、シズちゃんの声が途絶えて、戸惑った。
その原因は勿論俺だ。ぎゅうっと、腕を回して抱きつく。
口は開かない。顎が首筋にくっついた。

「臨也……?」
シズちゃんの声が困惑している。シズちゃんは、こういうときに殴らない。いや、殴れないのか。
汗とヤニのにおいが、鼻腔をくすぐる。俺は浴衣なのに、いつもどおりのバーテン服だ。

どくどくどく、心臓のおとが、シズちゃんに伝わっていないかが心配。


おれは、閉じていた唇を開けて。


     氷をシズちゃんの背中に入れた。



「……ひぇっ!?」
「随分とまあ間抜けな声だね」
「…〜ッ!」
急に背中を冷やされたシズちゃんの肩は、びっくりして跳ね上がった。
最高だよ、シズちゃん☆まったく、声も仕草も可愛いんだから!

「よし決めた、殺す。殺す殺す殺す殺す殺す」
「はは、シズちゃんに俺が殺せる訳ないじゃないか」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
ぶつぶつぶつと、呟いているシズちゃん。
そりゃ俺だって、シズちゃんになら殺されるのも本望かなって思うけど☆やっぱ俺が殺す方がいいよねv

「おーい、静雄ー?どうだ」
「トムさん。大丈夫です、殴りました」
「チッ……」
な、トムさん!?何で!?シズちゃんの上司なんてちゃっかりいいポジションを取って…!
……まさか、二人で祭に来たんじゃ……!!
「ああ、臨也か。………気ぃ、すんだか?」
「はい。まあ臨也を殺せないのは残念なんすけど」
「はは、まあいくぞ」
「はい」
ちょ、シズちゃん…!!
ま、待ってよ…!そんなにあっさり置いていかないでっ…!

俺はガリガリ氷をかみ砕きながら、新宿へ帰る。
……憎きトムさん。俺だけのシズちゃんを独り占めして!
そんなことしていいのは、俺だけなのに!!
シズちゃんだって、トムさんにはそんな素直になって!ばか!
もうシズちゃんなんて……シズちゃんなんて……大っ嫌い!!




……ごめん、嘘…!やっぱりシズちゃんのこと好きだ!愛してる!
抱きついたときの、シズちゃんのにおい。おんど。やわらかさ。
すべてがすべて、いま触れてるみたいに思い出せる……キャッ☆臨也ったら恥ずかしー!!
俺も、大胆なことをしちゃったな……シズちゃん、不審に感じてないかな?怒ってるだろうけど。
氷を入れたとき、どさくさに紛れて首筋を舌でなぞったのにも、気付いてないよね♪
今日は、さ。邪魔も入ったし、全然一緒に居られなかったね……。
俺は、どんなに少なくても、シズちゃんと過ごす時間が大事だよ。…まあ、多い方がいいけど。
だから、シズちゃん。
次は絶対一緒に行こうね☆




(シズちゃんの血を吸えるなら蚊になりたい……五秒で潰されると思いますが。)
07/01/13 けっぱ 08.10.11後書き修正