じゃあまずは、ここへ夢を配達に行きましょうか。 赤鼻の彼に指示を出して向かわせたのは、風情のある木造のお家。 そう、日本さんの家。 クリスチャンではない彼のところでも、クリスマスは一年の中でとても重要なイベントだとか。 前に話したときには「同人的には大歓迎すべきイベントですねえ」って言ってたなあ。 あ。でも確か、「でも冬コミに向けてそれどころじゃないこともあります」とも言ってたような。 よく分からなかったけれど、もしかしたら忙しくてクリスマスどころじゃないのかも。 でもせっかく一年に一回しかない日なんだし、楽しんでほしいな! 「モイモイ!メリークリスマスですよ!」 大きな声で叫びつつソリを庭に降ろさせたら、予想もしていない人が出てきた。 「おーっ!サンタさんが来たのですよー!」 「……え?」 それは立派なまゆげを生やした、小さなこども。 確かに、自分は日本さんの家に来たはずなんだけどなあ……。 「日本ー!にほーん!サンタさんなのですよ!!」 興奮して頬を上気させたシーランド君は、ばたばたと中へ駆けていった。 そうか。遊びに来てたのか。 そういえば日本さんは結構シー君と仲が良かったなあ。 最近はよく僕(とスーさん)の家に来て「パパ」と元気に遊んでるシー君。 今日は姿を見ないから、てっきりお兄さんのところに行っているんだと思っていたけれど。 「おや、サンタさんですか。これはどうもご丁寧に」 「あ、どうも」 ぺこりと頭を下げられたので、僕も反射的にそうする。 「ご丁寧になのですよ」 すると、日本さんの手を引いてきたシー君も真似をしてぺこり。 なんだか和やかな雰囲気が漂う。スーさんと一緒にいる時も思ったけれど、やっぱりこどもっていいなあ。 でも昔あれだけ可愛かったアメリカくんが今ああなったということは……いや、もう何も考えないでおこう。 「えっと、今は大丈夫ですか?忙しかったらすみません」 「あ、いえ、今年は余裕で入稿できましたし、自分でもびっくりするくらい暇になったんですよ」 穏やかに日本さんは微笑んだ。よかった、邪魔にはならなかったみたいだ。 「だからシー君が傍にいてやってるのですよ!感謝しやがれなのですよー」 妙に偉そうに言うシー君。日本さんはふふ、と笑う。本当、優しくて良かったね。 でもたぶん、この子のことだからちゃんと言えないだけなんだろうなあ。お兄さんによく似て。 あ、そうだ。お兄さんといえば。 「シー君。イギリスさんのところには行かないの?」 本来クリスマスは、家族で過ごす日だ。そりゃ日本さんは関係ないし、きっとシー君にとって家族同然なんだろうけど。 でも今は夜だ。流石に、お兄さんも心配するんじゃないかな。 お兄さんだけじゃなくて、「パパ」だって心配する気がする。きっと、恐い顔で。 「……イギリスの野郎のところなんか行きたくないです」 あれ、地雷ってやつなのかな? 寂しそうな顔をしたシー君の言葉で、急に和やかな雰囲気が崩れていく。 「えっと……どうしたの?」 「アメリカの野郎が来ないのですよ」 「ああ……」 その言葉で全てが分かる。ああ、思い出した。毎年イギリスさんは酷かったっけ。 それはたいそう機嫌が悪そうだ。独立しても、イギリスさんはいつもアメリカくんを想っているから。 きっと彼は、今頃やけ酒でも煽っていることだろう。……お、恐ろしい。 どうかクリスマスを中止にしなきゃいけないくらい酔いつぶれていませんように! そう思いながらも、馬鹿なのですよと呟くシー君に胸が痛んだ。 「それは、傍にいたくないよねえ……」 しんみりと言う。ですねえ、と日本さんも苦笑い。 「でも、シー君はあんな奴と同じになんかならないのですよ!」 そんな雰囲気を打破するかのように、突然シー君が叫んだ。 なんだろうと思って見つめると、まっすぐな瞳を日本さんに向けて、まっかな頬を隠しもせずに。 「クリスマスは、大切な人と過ごす日なのですよ!」 精一杯であろう言葉に、僕はきょとんとする。それはどう考えても、告白というやつだろう。 どこで覚えてきたんだろう。そんなドラマみたいな言葉。 ああ、僕が思っていたよりも、息子は大人になっていたようです。 なんだか運動会で走るこどもを見る母親のような気分になりつつ、日本さんの答えを待つ。 どうかどうか、大切な人から彼にプレゼントを。 ひそかに願った僕の願いが叶ったのか、日本さんは柔らかく微笑んで言った。 「それはそれは。嬉しい限りです」 それが日本さん特有の『八つ橋にくるむ』というものではないといいな、と思った。 「あ、そうだ!」 なんとなくほのぼのとしたような、恥ずかしいような空気を感じていたところで、思い出した。 「プレゼントを渡しますね!」 うっかり本来の目的を忘れてしまうところだった。 「早くしやがれなのですよー」 急いでソリに載せた大きな袋に向かう。 ええと、日本さんのと、シー君のプレゼントはっと……。 「はい!お待たせしました!」 「どうもありがとうございます」 「何だろう、ワクワクですよー」 赤と緑に包まれた箱を二人に渡す。シー君は急いでリボンを解く。あ、やっぱりこどもだなあ。 「あーっ!」 そしてシー君が取り出したのは、銀色に光る剣。 もちろん本物ではなく、箱には今の戦隊の名前が。 「こ、これ、欲しかったですよ……うおっ、やっぱ本物はかっちょいいのですよー!」 ぶんぶんと振り回す彼を見て、日本さんは手を合わせて一緒に喜んだ。 「良かったですね。紙のは流石にぼろぼろでしたから……」 「これでシー君がちゃんと日本を守ってやるのですよ!」 がしゃーん、とちょっと割れた効果音を伴って小さなシー君は笑顔を見せた。 良かった、喜んでもらえて。 僕もにこにこと笑う。 「では、私は……」 シー君が振り回して技の名前を叫んでいる間に、日本さんが包装紙を剥がす。 日本さんにも、気に入ってもらえたらいいな。 「おお!これは塩分を極力カットした庶民には手も出ない梅干しに、蜂蜜付けも……!こんなに沢山!」 「えへへ、お歳暮ありがとうございました。気に入って頂けましたか?」 「もちろん!シーランド君、早速頂きましょう!」 「頂いてやるのですよー」 目を輝かせる日本さんに、ほっと胸をなで下ろす。 良かった。 プレゼント、ちゃんと届いたみたいだ。 「じゃあ、僕はそろそろお暇しますね!」 「あ、引き止めて申し訳ありません。どうも、ありがとうございます」 「ありがとうなのですよ!」 丁寧な返事と、元気な返事。本当に、思わず頬が緩んでしまいそうになる二人だなあ。 「いえいえ。みんなに夢を届けるのがサンタの役目ですから!」 ソリに乗って、いいクリスマスを過ごしてくださいね!と空から叫ぶ。 大切な人と過ごす日、だなんて、ずいぶんキザなセリフだけど。 「シー君がそれを言うとは思ってもいなかったなあ……」 幼いと思っていた、こどもだと思っていたけれど、ちょっとかっこよく見えた。 きっと今頃は、梅干しを食べながら二人で笑っているんだろうな。 どうか二人に幸せを! サンタの僕にも届けられないプレゼントを願って、トナカイたちを走らせた。 さあ、次の家に行かなくちゃ! |