「こ、こんばんはー……」
曇った空。冬なのに、なんだか湿った空気。
クリスマスなのに、なんだか、寂しい。
そう、ここはイギリスさんの家。

「あのー、イギリスさーん!いませんかー?」
どこか外で飲んでるのかなあ。
何度ノックをしても、声を張り上げても、イギリスさんは出てこない。
どうしよう、プレゼントは外に置いておいたらいいのかなあ。
でも、それはやっぱり寂しい。
どれだけ酷い飲んだくれにだって、サンタは夢をプレゼントするんだ!
「イギリスさーん!入りますよー!?」
そう叫んで、ドアノブに手をかけた。
そのとき。
「い、いったぁ……」
突然ドアが開いて、おでこに隕石が落ちてきたんじゃないかと思うほどの衝撃。
涙目で顔を上げると、むわっとアルコール臭。
「クリスマスなんてえ、ひっく、くそくらえだぁーっ!」
あ、僕……
やめといた方が良かったかも……。


「ハハハハハ、いい歳してサンタの格好してよぉー!愉快だなー!」
「そ、そうですね…」
無理矢理上がらされて、なみなみに魔法の液体を注いだコップを差し出される。
うわ、困った。
「えっと、僕、飲酒運転するわけにいかないので…」
酔っぱらいサンタクロースに夢は運べない。
やんわりと断ると、イギリスさんはムッとした顔になった。
「なんだよ、俺と酒は飲めないってか?……あ、アイツも、ひっく、だから…」
途端に机に突っ伏して、泣き始める。
ど、どうしよう!
ただ酔ってるから泣いてるみたいにも、見えないし……こ、困ったなあ、本当に。
「お、俺だってよ、ひっく、い、忙しいんだよ…なのに、一生懸命、今日、ひっく、空けたのに…」
どうやら、頑張って時間を作ったのにアメリカ君が来ないから悲しくなっているらしい。
なんとなく、想像できるなあ。
何百年、長い長い付き合いの彼だから、どうしていたのかなんてよく分かる。
口では忙しいから来るな、なんて言いつつも、ちゃんと時間を空けたんだろう。
それは、普通なら明らかに素直じゃない彼が悪い。でも、相手が相手だ。
アメリカ君は、僕なんかより彼と一緒にいた時間は長い。
あまり仲が良くない(と、本人達は言っている)けれど、彼の性格なんてよく分かってるだろうに。
どうして、来てないんだろう。
「でも、アメリカ君が来ないなんて、おかしいですねぇ」
だから、何も考えずに言ってしまった。
それはまた、彼の機嫌を損ねてしまったようで。
その言葉に勢いよく立ち上がって、イギリスさんは真っ赤な顔で叫んだ。
……いや、喚いた、かも。
「べ、別に!お、俺はあんな奴に来て欲しくなんか!……あっ…めりか、なんかぁ!」
「わ、大丈夫ですか!?」
興奮のあまりか、酔いのせいか。
ふらりと崩れかけたイギリスさんを、慌てて支える。その息は荒く、なんだか辛そうだ。
本当にひどい酔い方だ……。
シーランド君がいたくない気持ちも、よく分かる。これは、普段の僕なら逃げてるくらいだ。
「あ、あの。もう飲まないでお水でも……」
恐る恐る言葉をかけるけれど、それは届かないみたいだった。
「なんだよぉ……ひっく、アメリカなんて、た、ただの馬鹿なのによぉ…」
熱のある頬に涙が流れていく。ああ、クリスマスに悲し涙なんて、あんまりだよ……。
「来るななんて、言ってないのにぃ…ばかぁ…アメリカのばかぁー…!」
僕が見えていないかのようなイギリスさんに、心が痛む。
ああ、もう僕に簡単な言葉はかけられない。
どうしたらいいのかな……僕、サンタなのに…。
「ひっく、ば、ばかぁ…あ、あんな奴、あんな、やつぅ……」
困り果てていると、喚いていたイギリスさんが静かになった。
「あ、あれ?」
慌てて顔を覗き込むと、目を閉じて荒い息で肩を上下させている。
「ね……寝た…?」
そう呟いた途端に、ひどい鼾が。
やっと収まったと安心すると同時に、ちょっと、寂しくなる。
「疲れてたんだろうなあ……」
一日中わくわくして。大事な人と過ごす日なのに、でも。
結局来ないことに耐えきれなくて、お酒に手を出しちゃったんだろうなあ。
……まあ、いつもそんな感じではあるけれど……。
それでも、僕が来る頃には二人でいっしょにいたのになあ。
アメリカ君は、どうしちゃったんだろう。


イギリスさんをソファに寝かせて、空みたいにどんよりとした気分になりながら、僕はソリを走らせた。
どうか、アメリカ君が来ますように。

気を取り直して、早く次の家へ行こう!