「ふう、これで最後かぁ……」
いろんな人のところを巡って。留守だったところもあったけれど。
とりあえず今年も、クリスマスはなんとか無事に終了しそうです。
「えっと、最後の家は…」
それは真っ白の雪が美しく、澄んだ綺麗な空気の、だけれどとても甘い国。
カナダ君のところに、僕とトナカイたちは降り立った。


「メリークリスマース!モイモイ!サンタクロースですよー」
大きなもみの木の下にトナカイたちを待たせて。ドアを開けると甘い匂いが鼻をくすぐった。
ああ、美味しそう。
僕も甘いものは好きだけれど、カナダ君は本当に大好きみたい。
紅茶にも、コーヒーにも、何にでもメープルシロップを入れるほどの、甘党。
でも一緒にカフェに行こうと誘おうと思った時は、何故か見つからなかったんだよなあ……。
そう思いながら、勝手に(サンタクロースの特権だ!)中に入っていく。
うーん、彼のことだから、何かおいしいものくれるかなあ。
そう思っていると、下にとことこと歩いてくる白い物体が。
「……あれ?」
それは、いつもカナダ君と一緒に居る白クマの…えっと、クマ…なんだったっけ。
可愛いクマさんが現れて、僕に温かい紅茶を差し出した。
「えっと、あ、ありがとう」
受け取ると、とことこと白クマさんは廊下を歩いていく。
とりあえず、ついていく。
とことこ。
とことこ。
あ、なんか、童謡みたいだ……うちの花たまごも可愛いけど、やっぱ動物って可愛いなあ…。
紅茶のせいなのか白クマさんのせいか分からないけれど、ほんわかした気持ちになる。
ああ、いいなあ……。
そう思いながら付いていくと、広い部屋に出た。
「あ、クマ吾郎さん、どこ行ってたのー?」
「お?お前何連れてんだ?」
「わあ!サンタじゃないか!」
白クマさんに連れられた僕が見たのは、予想の三倍の人数。
カナダ君、フランスさん、アメリカ君だった。

「え……あれ?」
フランスさんとアメリカ君、家に行ったのにいなかったと思ったら。
でも、フランスさんがソファでカナダ君に後ろから抱きつかれてるのはなんでだろう。
僕の視線を感じたのか、カナダ君が不機嫌そうに言った。
「フランスさん、放っておくとまた変なことするじゃないですか」
あ、そういえば、去年は酷かった。
服を脱がされて、恥ずかしい写真まで撮らされたっけ……!
今年いなかったのは、カナダ君が止めてたからなんだ。
「それは助かったよー、ありがとう」
去年はそこかしこで大惨事になってたからなあ。
しみじみと思っていると、フランスさんが嫌そうな顔をした。
「なんだよ、おにーさんがせっかくクリスマスを盛り上げてやるのに」
「そうそう、今年は普通すぎてつまらないんだぞ!」
そんなフランスさんに賛同するのは、アメリカ君。
って、あれ?
なんで?
「アメリカ君、なんでここに…」
「なんだい、家族のところにいちゃ悪いのかい」
おどけたようにアメリカ君は肩を上げてみせるけど、いや、そうじゃなくて……。
「イギリスさんのところには行かないの?」
だって、あんなに待ってたのに。
グダグダになるまで、酔いつぶれるまで。
なのに、カナダ君のところにいるなんて。
「……別にいいんだよ」
さっと顔に陰が差して、そっぽを向かれる。
どうしたんだろう。
「でも……」
「アメリカ、ほら、やっぱり行ってあげなよ」
僕の声に重なったのは、カナダ君の声。
フランスさんの後ろから顔を覗かせて、よく似た顔をした兄弟に声をかける。
「…やだよ」
アメリカ君は静かに答えて、不機嫌になってしまった。
どうしたんだろうなあ…本当に。
「全く、イギリスさんによく似てるよ」
「本当だよなあ」
僕が首を傾げていると、呆れたような二人の声が降ってきた。
「どうしたの?」
本当にこの人達は、どうしたんだろう。
いつも、どんなにモメてたって、アメリカ君はイギリスさんのところに行ってあげてるのに。
「ああ、アメリカはね、拗ねてるんです」
僕の問い掛けに、カナダ君が答える。
拗ねてる。
それは、アメリカ君の性格を想像すると別に奇妙なことでもないけれど。
「どうして?」
だって、イギリスさんの言うことは嘘だなんて、誰にだって分かるじゃないか。
ましてやそんなイギリスさんのことをよく知るアメリカくんが……。
頭に疑問符をいっぱい浮かべていた僕に、口の左端だけをひくりと動かしたフランスさんが言った。
「んなもん決まってるだろ……さすがに、毎回毎回拒まれれば…なあ?」
「で、でも、いつもは…」
違うのに。
言いかけた口を塞ぐかのようにフランスさんはチッチッチ、と言った。
あ、指、振ってるつもりなんだろうか。カナダ君に捕まってて動かせないみたいだけど。
なんとなく様になっていないながらも、フランスさんは低い声で囁いた。
「見返りを求めてはいけないのに、つい求めてしまうのが恋ってものなのさ……」
僕は、はっと息を呑んだ。フランスさんの頭越しに、カナダ君も驚いた顔をしているのが見える。
いかにもフランスさんらしい言葉だったけれど、甘美なのになんだか切なく聞こえたそれ。
でも……。
何かを言いたかったけれど、何も言えない。
ぎゅっと、服の裾を掴む。
クリスマスなのに、お互い大事に思ってるのに、一緒に過ごせないなんて…。
なんだか不甲斐なくて、俯く。
「まあ、そういう訳だからさ」
サンタにもやっぱり、クリスマスでだってできないことはあるのかなあ…。
そう思っていたら。
「サンタさんもよいこでいたおにーさんに見返りとして脱衣とか脱衣とかするべきだと思うんだはぁはぁ!」
いきなりフランスさんが僕に襲いかかってきて、って、ええっ!?
「な、何するんですかぁ!?」
というか、カナダ君は!?
慌てて見ると、カナダ君も油断していたのか、呆然と自分の手を見つめている。
ああ!いいこと言ったと思ったら…!!
「ほらほら、おにーさんにプレゼントはないのかなぁ!?ないなら脱ぐべきだよねぇ!」
「い、いやあああああ!」
服に手をかけられながら必死で叫んだ。
ちょっと、最後の配達でこんなことになるなんて!
「た、たすけ…」
涙目で発した言葉が、神様に通じたのか。
「めいぷる!」
メープルシロップの瓶が飛んできて、フランスさんの頭に直撃した。
「もう、せっかく止めてたのに…やめてくださいよフランスさん!」
「いや、瓶はさすがのおにーさんも痛…」
そこには普段のほんわかした空気からは想像もできないような、怒ったカナダくん。
フランスさん、あれ、たんこぶになってないのかな…。
まあ、なにはともあれ助かった!
「どうもありがとうございます…!」
そうお礼を言って(あれ、僕、さっきも言わなかったっけ)なんとか収拾したとき。
アメリカ君の一言で、僕は思い出した。
「もう、そんな茶番はいい加減にしてさ、プレゼントはないのかい?」
「あっ!す、すみません!」
い、いけない……確か日本さん達のところでも忘れかけてた。
よかった、アメリカ君が言ってくれて。プレゼントを渡さないサンタなん、て……。
「ああああっ!」
「わっ」
カナダくんが目をまん丸にして僕を見る。
す、すっかり忘れてた……!
「ど、どうしたんですか?」
「い、イギリスさんにプレゼント、渡すの忘れてた…!」
なんだか悲しくなってばかりで、完全に忘れてた!
ど、どうしよう、イギリスさんが気がついたら…!
あんなに悲しい状態でプレゼントがないなんて知ったら、それこそ潰れちゃいそうだよ!
そうあわわわと慌てる僕を見て、落ち着けとばかりにフランスさんが首を振った。
「おいおい、うってつけの奴がいるじゃないか」
「へ……」
その視線の先には、イギリスさんが求めてやまない、
「……やだよ」
すっごく嫌そうな顔をした、アメリカ君が。
「お、お願いっ!これ、イギリスさんに持っていって!」
頭を下げて、可愛らしいサンタとトナカイの絵が描かれた箱を差し出す。
アメリカ君は口をへの字に曲げて、しばらくしぶっていたけれど。
「……いつ渡せるか分かんないぞ」
必死で頼み込んだら、嫌そうながらも受け取ってくれた。
ちゃんと、渡してもらえますように…!
「じゃあ、みなさんのプレゼントはこれですよー」
一人ずつに大きさもラッピングもバラバラの箱を渡す。
よ、良かった…サンタクロースの使命は果たせたぞ!
ほっと胸を撫で下ろしたら、可愛らしいクマさんの彫刻が施された時計が鳴った。
「え、もう11時!?」
気がつけば、クリスマスの終わりまであと一時間。
こ、これはまずい!
「じゃ、じゃあ僕、帰りますね!モイモイ!」
カナダさんや白クマさんにお礼を言って、僕は急いでソリに乗った。
「……なあカナダ、もうおにーさんも何もしないからさ、腕離してくれても…」
「やです。まだクリスマスは終わってないんですから」
苦笑いを浮かべるフランスさんの後ろで満足げな顔をするカナダ君と対照的に、二つの箱を見つめて複雑な表情をしているアメリカ君に見送られながら。


やっとプレゼントの配達は終わった…!
でもまだ僕には、行かなくちゃいけないところがある!

早く家へ帰らなきゃ!