全ての配達を終えて、着いたのは自分の家。
トナカイたちにお礼を言って一人ずつ撫でてやり、暖かい中へ。
サンタクロースが最後に訪れるのは、

「ただいまですー!」
「ん……おがえり」
やっと家に着いた僕を温かく迎えてくれたのは、同居人であるスーさん。
ちょっとだけ嬉しそうな顔をして(と言っても、一見無表情なんだけど)温かいココアをくれた。
「はぁ…今年は随分時間がかかっちゃいましたよ」
二人でソファに並び、一口飲んで息を吐く。
本当、今年はいろいろ大変だったなあ…。
それに、まだ幸せにしてない人もいるし……。
「はあ…」
ココアの白い湯気を眺めながら、あの二人のことを考える。
もうすぐクリスマスは終わるけれど、まだ、意地を張り続けてるのかなあ。
僕はサンタクロースなのに。
幸せを配るためにいるのに。
役目を、果たせなかったのかなあ…。
「…おい」
「え?ひ、ひえぇぇぇぇ!?」
思案に耽っていると、目の前にスーさんのドアップが。
ちょ、ひ、こ、こわ……じゃなくて!
「大丈夫か?」
「へ…」
よく見ると、それは恐い顔じゃなくて。
ちょっと心配そうに、スーさんは僕を見つめていた。
「え、えっと…」
「何があったかは知らんけっぢょも、おめは悪ぐね」
「え」
何も言ってないのに。
スーさんには、全てお見通しみたいだ。
ココアが飲みやすい温度なのも、こんな遅い時間なのに起きてるのも。
それから、いつもよりも口数が多いのも。
ぜんぶぜんぶ、僕のために…そんな、恋人みたいな…、ってぼ、僕は何を考えて…っ!
「なした?」
「な、ななななんでもないです!そ、それよりっ!」
ぶんぶんと首を振って、頭から妙な考えを除ける。
変なことを考えるな!僕!
「あ、あの、すっかり遅くなっちゃったんですけど…」
ぺしゃんこになった袋に手を入れて。
これが本当の、最後のお仕事。
「メリークリスマス!スーさん、プレゼントです!」
小さな直方体。緑のリボンをかけられた箱を渡す。
気に入ってもらえると、いいんだけどな。
開けてください!と促すと、小さなあんがと、という声と共にスーさんは包みを剥がしていく。
大きな、ごつごつした男の人らしい手。
だけど意外と、丁寧に剥がすよなあ。全然破かない。
一見怖いし、がっしりしてるのに…なんだか動作が綺麗なんだよな、スーさんって。
そんなことを考えながら、僕はずっとスーさんの手を見ていた。
「あ」
包装紙が剥がれ、箱が開けられる。
そこには、黒色の大人っぽい眼鏡ケース。
「スーさん、いつも机の上に置いてるから…使ってもらえたら、いいんですけど」
えへへと照れて笑う。
サンタクロースのプレゼントだから魔法で出したものではあるんだけど、結構迷って選んだものだ。
ドキドキしながら顔を見ると、僅かに口の端が上がっているのが見えた。
良かった。
最後の仕事で、喜んでもらうことができたみたいだ。
「…」
「…?」
そう安心していたら、スーさんがじっとこちらを見ていることに気がついた。
「どうしたんですか?」
「あー…その、おめさんに、俺から…」
「え…?ぷ、プレゼントですか!?」
ん…と頷くスーさん。
まさか、あげる側の僕が貰えるとは思ってもいなくて。
「ほ、本当ですか!?うわー、楽しみだなぁ…!」
「んじゃ、目ぇ瞑れ」
言葉通り、目を閉じる。
な、何をくれるんだろう…!
スーさんお裁縫得意だし、服かなあ。いや、お菓子かも!
期待に胸を躍らせていると、スーさんが近づくのが分かった。
何だろうな、わくわくする…!いったい何を、くれ……、
「ん…」
思わず目を開く。
え、ちょ、今の、って。
唇に、ちょっとガサガサしたものが。
「あ、え…う……」
え、えっと、い、今、僕、
「キス、された…?」
声に出した途端、改めて恥ずかしくなった。顔に、熱が集まるのが分かる。
え、わ、そ、そんな、
「うわああああっ…!」
思わず、クッションに顔を埋める。
そんな、スーさんが突然そんなことをするなんて…!
「…や、か…?」
うぅ、と呻いていると、隣から声がした。
なんだか寂しそうな声に、ちらりと顔を盗み見る。
しゅんとする顔。なんだか、ちくりと心が痛む。
「え、えっと、そうじゃなくて…!」
気がついたら、弁解していた。
「は、恥ずかしかったんです!だから、別に、い、嫌じゃ…」
熱い頬もそのままに、両手と口を必死に動かす。
あ、あれ?僕、恥ずかしくてしょうがなかった、はず、なのに…!
「…ん」
そんな僕の思いが伝わったのか、スーさんは嬉しそうに微笑んだ。
あ、よかったぁ…。
そして、いつのまにか安堵している僕がいて。
「じゃ、おめさんから」
そんなときに、スーさんからまた予想外の言葉。
え?
「ぼ、僕、さっきプレゼント渡しましたよ…?」
そう。もう僕からあげるものはない。
だけど、スーさんは違うことを思っているらしくて。
「ちげぇ。サンタクロースじゃなか。おめさんから」
「え、ええ!?」
まさか、そう来るとは。
確かに、スーさんに眼鏡ケースをあげたのは『サンタクロースとしての自分』だ。
だけど…そんな、二つもプレゼントをねだるなんて、スーさんらしくもない。
「あの、僕、何も持ってないんですけど…」
「ん。それでえぇ」
思ってもなかったことなので、プレゼントなんてあるはずもない。
でも、スーさんはそれでいいみたい。
……まさか、領土よこせなんて言わないよね!?
その恐ろしさにガクガクと震え出す僕の心など露知らず、スーさんは立ち上がった。
「…?」
何をするんだろう。
首を傾げたら、体が浮いた。
「え、えぇぇぇぇっ!?」
いわゆるお姫様だっこというもので。
まあ、スーさんに抱えられるのは慣れっこなんだけど。でも、いつもは担ぐ、って感じなのに。
…や、やっぱり領土!?
ブルリと震えると、声が降ってきた。
「おめ、俺んになれ」
「え、りょ、領土ですかぁ!?」
やっぱりぃぃぃぃ!?
「…違ぇ。…あー…その…上手く言えんけっぢょも…」
困ったような声がしたと思ったら、半泣きでオロオロしていた僕の髪に、また、唇が。
「こういう、ことだなぃ」
びっくりしてその顔を見る。
いつの間にか眼鏡が外された顔が、綺麗で。
滅多に見られないレンズ越しじゃない瞳が、真っ直ぐで。
その耳は、真っ赤だったけれども。
かっこいい…。
なんて、思ってしまったから。
「はい…」
見とれてしまった僕は、いつのまにか返事をしてしまった。
それを聞いたスーさんは、またぷす、と優しく微笑んで。
「じゃ、ややでも作っか」
「…はい…て、え、えぇぇ!?」
思わず頷いてしまってから、驚く。
な、なに…!?スーさん、今、何て…!?
「昔からおめは欲しがっちょったから…頑張っど」
「な、何ですかその急な流れ!?」
腕の中、ベッドへと運ばれながら悲鳴をあげた。
ぼ、僕の今までの感動は!?
だけど、満足そうなスーさんの顔が、かっこよかったから。
諦めた僕は、ソファにぽつんと置かれている眼鏡ケースを眺めた。

本当は、眼鏡を外した顔がかっこいいから眼鏡ケースを選んだ…なんてのは、秘密にしよう。


最後に誰よりも大きなプレゼントをもらったサンタクロースは、大切な人のもとで微笑んだ。

でも、みんなが幸せになるまでクリスマスは終われない!