暗闇が訪れる。そこには誰もいない。いや、誰もというのはおかしいかもしれない。居るのはオレだけ。ただ一人、自分の姿だけが目に映る。それ以外はただの闇。くろ、とも、あお、ともいえない色をしている。やみ、だ。なにか悪いことでもしたんだっけ、と記憶を辿る。ううん。閉じこめられるようなことをした覚えはない。それに、こんな真っ暗なところはいくら冥界でもないはずだ。
チチ、チチチ
顔をあげると、一匹の鳥がいた。まだ小さい。どうしたんだろう。こんなところに。可愛い。ふわふわの身体に触ってみたくなって、手を伸ばす。ふい、と鳥は方向転換した。う、捕まえるのって難しいのかなあ。こんなよちよち歩きしてる奴なのに。何度も何度も捕まえようと試みたけれど、その度に鳥はオレの手から逃れた。躍起になってみたら、何十回、何百回目かでやっと掌の中に入れることができた。やったあ。ふわふわだなあ。
いたっ
安堵した時に、鳥のくちばしに突かれて手から血が出た。何するんだよう。怒って鳥に話しかけると、すでに鳥は、オレの手の中で死んでいた。


「あああああああああああああっ……!」
顔から温かさが抜ける。あ、あ。やめてやめてやめてやめて。頭の中が真っ白になって、ただただ叫ぶ。
彼の身体はひどく熱く、呼吸は乱れている。こんなに苦しそうな彼は、初めて、だ。


叫んでいる間に、気付けば数人の鬼によってオレと鬼男くんは運ばれていた。

「明らかに、ストレスです」
「働かせすぎですよ」
「有給でもとらせてやったらどうです」
そんなことを、耳にたこができるくらい言われた。その通りだと思った。
どうしてあのあと、彼を秘書から外さなかったのだろう。いきなり変わったら困るから?有能だから?違う。
 放 し た く な か っ た 。
それなのに彼が何か言うのが怖くて、目を合わせることもできなかった。応え、られなかっ、た。
こんなことになってしまうだなんて、思ってもなかった。まさか、倒れてしまうなんて。まさか。

はなしてあげる

口を開く。ひとこと、彼に声をかける。これ以上、こんな思いをしたくはない。
オレはこわい。こわい。彼が消えてしまう、の、が。

だからどうか消えないで。お願いこわい思いをさせないで。





こわい