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ここは、誰も死なない。 だって死者だけがいるんだから、誰も死ぬはずがないだろう? オレは葬式に出たこともなければ、誰かが血を、命を流すところすら見たことがない。 「なんで俺が地獄なんだよ!」 一ヶ月に一人くらいは、地獄行きを嫌がる極悪人が来る。悪ゴメスのように、母親に会えば納得するような奴らばかりだったらまだいいのに。 鎮めなきゃ他の死者を裁けない。正直こういう奴は苦手だし、怖いのだけれど、相手をしなくてはならない。 「うるさいなあ。自分が何をやったか分かってるの?」 男も女も子供も老人も妊婦も何もかも、老若男女を大量虐殺した男だ。どうしてそんなに殺せたんだろう。ぞっとする。俺にはそんなに沢山の死体を見ることなんかできない。 「早く地獄へ行け!」 喚く男に、鬼男くんの代わりの人が一喝した。他の鬼が飛んできて、無理矢理地獄に連れて行く(悪ゴメスの時もこうしていればよかったのに)(鬼男くんが一人で何でもできたから、他の人が来なかっただけかな)。 「……大王?大丈夫ですか?」 気がつけば、仕事が止まっていた。思った以上に、オレは怯えていたらしい。 「ごめんね。ちょっと、休憩させて」 いつもなら「サボるなよこのフヌケが」とか何とか辛辣なことを言ってくる鬼男くんがいるのだけれど、オレの顔があまりにも酷かったのか、それとも上からの命令に逆らわないだけか、優しい声で鬼は言った。 「分かりました。ごゆっくり」 「はー……」 戸を閉めて、溜息を吐く。昔は、耐えられたのになあ。 ……昔?自分で追い出した癖に。彼が居なくなると、こんなことを言うなんて、ね。 「図々しいなあ、オレは」 くすくす笑う。ほっぺたに、汗が伝う。汗、そう汗だ。涙なんかじゃない。引っ込みのつかなくなった子供のように嗚咽が喉から出ているけど、これは泣いているわけじゃないんだ。 「鬼男くん」 口が勝手に彼の名前を紡ぐけど、これは決して寂しいからじゃあない。違う。違うんだよ。鬼男くんのことが好きだなんて、会いたいなんて、そんな、はず、 「呼びましたか」 違う、違う違う違う違う、嘘、だろ?鬼男くんの声が、ここで、するはずなんか、 「おにおくん」 振り向いてから、しまった、と思った。馬鹿みたいだ。幻聴に振り回されるとは。 そっと両手で顔を掴まれる。ああ、睫毛が長い。綺麗だ。そう思った直後に、優しい口づけ。鬼男くんが優しい?そんな訳ないよ、有り得ない。だってこれは幻覚だもん。 それでも、俺の視界には愛しい一人の鬼。 |