喉のね、ここのところが餅をつまらせたように呼吸できなくなるんだ。
身体はさっきまで熱かったからね、だるいんだけど、すぐに冷めていくのがわかるんだ。
お腹はやんわりときりきり痛いし、眩暈がして吐きたくなっちゃう。
目を閉じて暗い世界に意識を鎮めようとするんだけど、どうもそれができなくてね。
全身が、どくどくどくどくと音を立てているようでさ。
気がつけばぼろぼろと涙がこぼれているんだ。おかしな話だろ。


もう幾日、人間界の時間で時を過ごしたのかは分からないが、ときどきこの上司はつまらなそうに言葉を紡ぐ。
自分が生まれたときにはもう、この世界に存在していた上司。
いつごろ生まれてきたのか、そもそも何かから生まれたひとなのか。そんなことすら自分は知らない。
「きみは天国、あなたは地獄。地獄。地獄。天国、地獄。天国。天国。はいあなたも天国」
資料を捲りながら、淡々と告げる声。天国か地獄。そのどちらかを言えばいいだけの、重く簡単な仕事。
それに喜びを感じるものもいれば、憤りを感じるものだっている。人それぞれ、だ。

「……くん、鬼男くん!」
ハッとする。気がつけばもう、目の前に死者はいなかった。
「どうしたの、鬼男くん。終わったよ」
「すみません。ぼうっとしていました」
「珍しいこともあるなあ、何考えてたの?」
慌てて資料の束を纏めにかかったら、目の前の大王から疑問の声。確かに、僕は普段何かを考え込むようなタイプではない。
「何でもないです」
『あなたのことを考えていました』なんて、言えない。そんなことを言ったら調子に乗りそうだし、恥ずかしい。

「もしかしてさ」
頬杖をつきながら、どこか遠い目で大王は何かを言おうとする。
その仕草にどくり、と体の中から音がした。……なんだ?何に僕は反応したんだ。自分で自分が分からない。気付かれないように、下を向きながら唾を飲み込む。何だっていうんだ、きっと今日の僕は、なにか、おかしい、


「えっちなこと考えてた?」


頬を軽く染めながら、顔を覗き込まれる。どくん、まただ。また、また。
「そんなこと」
「やだなあ鬼男くんのえっちい〜」
オレのこと狙うなよ★と大王は体を抱きしめる。どきん、

どく、

「鬼男、く…!」
僕の手によって、顎をつかまれた大王。
この人がどんなものであろうと、なんであろうと、そんなことどうでもいい。

「ええ」

どくん


「僕はあなたのことを狙ってますよ」

どく、どく、どく

どくどくどく

この音が止まずとも、もう、いい。
ゆっくりと、僕はそのひとに口づけた。





くるしい